竹原BLOG:奈良民話祭り ― グリム童話・メルヘン・語りの文化 とっておきの話。 

夏の奈良民話祭り:8月5日(金)午後3時より奈良町物語館で4回公演!
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七曲の玉にどうしたら糸を通せるの?東吉野の蟻通明神縁起

2010年08月25日 | 日記
東吉野村大字 小(おむら)に丹生川上神社中社があるが、
江戸時代から「蟻通明神」とも称された。
その名残は神社の東にある橋の名称にもみられる。


左手前の欄干に「蟻通橋」とあるのがみえますか?


蟻通神社については次のような話が語りつがれている。


蟻通明神(ありとおしみょうじん)

むかし、お殿さんが、
「年寄りは飯を食うし、はたらきもない。山に捨ててしまえ」て命令を出さはってん。
 ところが、あるところに、ひとりのむすこがおって、
親を山に捨てるのはいややというて、家の中に芋穴を掘って父親を隠したんやと。
ほんで、毎日食べ物を運んで養うてたんや。

 あるとき、お殿さんにとなりの国から難しい問題を出してきたんや。
けど、だれも答えが分かるもんがおらへん。
その問題のひとつは、七曲の玉に穴があいていて、「この穴に糸を通してみよ」いうことやった。
むすこは、芋穴のなかの父親に尋ねてみた。
父親は、
「そりゃ、蟻の足に糸をつけて穴の中に入れて、出口の穴に蜜をぬっといたらええ。
蟻は蜜を慕うて行くから、糸がとおる」いうて教えてくれた。
二つめの問題は、四角い木があって、本と末がわからへんねんけど、
「本と末を当ててみい」いうことやった。
父親は、
「そりゃ、水につけたら分かる。もとのほうが重たいから、かすかに沈む」いうた。
 さいごは、「灰で縄をこしらえてみい」いうことや。
父親は、
「そりゃ、なんでもないことや。縄に塩をぬって焼いたら形が残る」いうた。
むすこはさっそくお殿さんのとこへ行って、答えを教えたんやて。
お殿さんは喜んで、むすこに、
「ほうびをやろう」いわはった。
むすこは、
「じつは、これこれで、私の父親を隠して養うていますが、
三つの問題は、みな父親が答えてくれました。
どうか、父親が死ぬまていっしょに暮らせるように、
山に捨てんでもええようにしてください」て頼んだんやて。

 お殿さんは、年寄りの知恵を認めて、それからは、
年寄りを山に捨てるいうことをやめにしてんて。

この孝行息子をまつったあるのが蟻通明神やねん。


原話:竹原威滋・丸山顕徳編『東吉野の民話』 
語り手:坪井貞幸(東吉野村小)
再話:村上郁          不許転載


東吉野の子だもたちはこんな話を聞いて
親孝行の大切さを実感したのですね。

この話は文献的には、『枕草子』(226段)にも載せられており、
また、能にも「蟻通」というのがありますよ。


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