えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

町の人々

2009年12月05日 | 雑記
:吹く人
晩に歩いて帰宅していると、国道に出る交差点に近づくにつれて音が
聞こえてきます。澄んだ笛の音、ということばがありますが冬の透明な空気の
中でもなお透って耳に届く、かぼそいが自己主張の強い音でした。
誰かの窓が開いていて、そこから音が漏れてくるわけでもなしに、ただ一定の
音を吹きながら、国道に近づくにつれて音も大きくなってきました。
車がたくさん過ぎ去る爆音の間を器用に縫って、音は耳に近づいてきました。
久々に歩くつもりになって歩道橋を見上げると、向かいの道路に下りる側の
階段の上、ちょうど街路灯の光が落ちる一角で誰かがじっと立ったまま固まって
いました。私は階段をのぼりました。音は歩道橋の隅から流れていました。
オレンジの明かりと黒いいちょうの影を背景に、落下防止の柵に譜面を立てかけて、
流れる車を見下ろしながらフルートを吹いている人がそこに立っていました。
吹いてはまちがえ、まちがえては吹きなおし、明かりの下で譜面をにらむ横顔は
光に邪魔されて見えず、そそくさと後ろを通り過ぎて中肉中背の背格好とフルート
の音を頭の後ろで聞きながら階段を下りました。


:はく人
朝シャッターの閉じた本屋の前を過ぎるのは背広と制服と、たまにスーツ、後は
スカートとヒール。流れは一定でひたすら前を流れるのみです。
夜シャッターの開いた本屋の前は、ラックに陣取り雑誌を読む人あり、灯火のもとで
迎えを待つ人あり、歩む足の速さもすこし落ち着いてゆるゆるとしたよどみが
本屋とバス停の合間にできあがります。
そのよどみにまぎれて、短いスカートと細かい網目のタイツの半身が私の目元を
過ぎ去りました。くびれた足首から左右をしぼったようにすっきりと細いふくらはぎに、
ほどよく肉のついたふとももを膝頭がふくらはぎとちょうどよくつないでいます。
足先にはかかとのない3センチほどのヒールのついた赤い靴をつっかけ、無造作に
本屋のわずかに高い段を降りてバス停の傍にあるポストに佇みました。
本を手にした手首はジャンパーのようにすぼまった厚い布で覆われた無骨な姿でした。
黒いスカートをくるむように、腰まで丈があるカーキ色のジャンパーから覗いている
首は太く、ぼってりとした口もとと視線をアスファルトに落したそれは男性のものでした。
ジャンパーのすそを境目に男女の分かれる背中に誰も目を留めず、本屋の前は
いつものとおり、歩く人並みがよどんで見えました。
コメント (2)
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