◇ 『チャイルド・ファインダー 雪の少女』(原題:The Child Finder)
著者: レネ・デンフェルド(Rene Denfeld)
訳者: 細見 遥子 2019.10 東京創元社 刊
この小説は米国における子供の失踪事件がテーマである。
ナオミは「子供見付け屋(チャルドファインダー:行方不明子供捜し人)」と呼ばれている。
ナオミ自身も幼いころに妹と共に森の中の塹壕に囚われの身となった暗い記憶がある。塹壕か
ら逃げる際に妹を置き去りにしたことが後悔の塊となって苦しんでいる。ナオミは森の季節労
働者らに救われ、ミセス・コトルの養女となり、ジェロームというやはり養子の男の子と一緒
に成長する。そんな経緯から幼い子の行方不明者の発見を天命のように思っている。
この度の依頼は森にクリスマスツリー用の樅の木を採りに行った際に両親とはぐれて行方不
明になった5歳の少女マディソンを探しだすこと。あらゆる手を尽くして探し回り3年経ってし
まった。そして子供探し屋のナオミに辿り着いたのだ。
探し屋の仕事はうまく探し出せることがあるし、死んでいることが確認されるだけのことも
ある。また誘拐犯人に捜索を悟られて、次の日に子供が死体で発見されたこともあった。
ナオミは3年も経ってマディソンは死んでいるかもしれないが、絶対探し出したいと心に決め
る。
次いで洞窟の地下室に囚われたスノウガールと称する少女の語りになる。
スノウガールを捉えた男は洞窟の主。耳が聞こえず話ができない罠猟師(ミスター・Bと呼
んだ)。怒ると暴力を振るう。スノウガールは囚われる以前の記憶が全くない。しかしスノウ
ガールが想像の世界で作り上げたおとぎ話ではマディソンという少女が登場する。(小説とし
てはここがやや奇異に感ずるところであるが、最終壇でその趣旨<複雑性PTSD>が明らかに
なる)
スノウガールの囚われの日々、罠猟師との無言の対決とマディソンを探すナオミの探索過程が
交互に語られる。つまり探す側の大人の様子だけではなく囚われた子供の心理が巧みに捉えられ
ているのが本書の特徴である。
マディソンが姿を消した森はナオミやジェロームが養子として育った地に近い。ナオミは森林
監視事務所のレンジャー・デイブと一緒に、入植者の小屋や怪しげな過去を持つ男、最近不自然
な買い物をした人物などを調べ上げ、ようやく渓谷の洞窟に潜む犯人に迫る。
ところが犯人の罠猟師はナオミらの急迫を察知し、罠を仕掛けてナオミやレンジャー・デイブ
を殺そうとするが逆にスノウガールの手によって死んだ。スノウガール:マディソンは両親の下
に帰った。
実はこの罠猟師は少年時代の頃、或る罠猟師に誘拐され森の中で虐待を受けながら育てられた
過去があった。
またナオミは養子同士のジェロームとの間に恋愛感情が芽生えていたが、自分の過去を思い、
正面から向かい合うことができなかったが、粘り強いジェロームがその束縛から解放してくれ
て二人は心身ともに強く結ばれた。
ナオミは世界の悲しみの側を歩いてきて夜明けを見た人々の一人である。
次作の、やはりナオミが主人公である『The Butterfrly Girl』の邦訳出版が楽しみである。
(以上この項終わり)