◇『三つ編み』(原題:La tresse)
著者: レティシア・コロンバニ(Laetitia Colombani)
訳者:斎藤 可津子 2019.4 早川書房 刊
「・・・指が綴る編みと紡ぎの物語。これは私の物語。」プロローグでの著者の語り。
三人の女性。スミタ(インド)、ジュリア(シチリア)、サラ(カナダ)。これが
三つ編み。3人がどこでどう紡がれるのか。
<スミタ>
不可触民であるスミタは、娘のラリータにだけは自分と同じような人生は送らせない、
学校にやろうと頑張る。字を読んで書けるように。しかし学校でラリータは虐げられた。
スミタは糞尿処理の軛から逃れるるために敢然と村脱出を図る。ヴィシュヌ神の聖地へ
向けて、バス・鉄道を乗り継いで飲まず食わずの1千キロの旅。スミタとラリータはテ
ィルパティの寺院で、古来からの伝統に従い髪を剃ってヴェンカテスワラに捧げる。
<ジュリア>
高校で優秀だったジュリアは100年近く続く一家の生業である父の「かつら」の仕事
を引き継ぐ覚悟で学校を辞めた。父は脳梗塞で寝込んだ。倒産の危機が目前に。家族や
従業員の生活のすべてがジュリアにのしかかってきた。そんな中、ターバンを巻いたイ
ンド人の男と知り合い、深い仲になる。彼カマルは、シチリア人の髪にこだわる家族の
反対を押し切り、インド人の髪を輸入して家業の再起を図る提案をしてくれた。
<サラ>
サラはバツ2ながら、人も羨む有名弁護士事務所のアソシエイト弁護士、マネージ
ングパートナーの椅子を狙ってしゃにむに働いている。
ある日法廷で倒れ、病院で検査を受けた際に乳がんを発見される。しばらく前から胸
が痛かったのだ。弁護士事務所はサラの病を知ったとたんに排除に動き始める。失意の
どん底に陥ったサラはそれでもがん克服のために最後の挑戦をする。
化学療法の副作用で髪が抜けた。自分らしさを取り戻すためにサラはかつらを身に着
けることにする。それはヴィシュヌ神に捧げるために剃ったサラとラリータの髪だった。
さて『三つ編み』の読みどころ。
インドとカナダとイタリアのシチリアという、地理的にも社会的にもおおきくかけ離
れた3人の女性の人生が、どこで交錯するのか。興味津々で読み進むのであるが、さす
がに脚本家。ラストで巧みに三つ編みを紡ぎ読ませる。
3人を紡いだ糸は髪の毛だった。髪は女性としての尊厳や女性性の象徴。いずれも懸
命に自分の意志を貫く強さを持った女性の戦いぶりに感嘆しつつエールを送る。
(以上この項終わり)