◇『十三階の神』
著者: 吉川 英梨 2018.7双葉社 刊
サリン殺人事件のオウム真理教宗教団体をモデルにした新興宗教団体と警察庁
公安部門との息詰まる闘い。アメリカ生まれのスパイサスペンスを思わせる痛快
なテンポとスリルが小気味よい。刺激的なシーンが連続して起こるノンストップ
活劇である。
主人公は「公安のモンスター」と異名をとる黒江律子。巡査部長ではあるが、
警察庁警備局警備企画課直轄諜報組織別名「13階」の「作業員」(エージェント
=秘密工作員)の一人。腕扱きの作業員として、職務のためなら敵とのセックス
も厭わないという猛者。本書でもR15を超える男女の際どい描写に目を剥いたが、
アメリカの小説によく見られる読者サービスかと思ったがさにあらず。後々重要
な意味を持ってくる伏線だった。
サリン事件から22年。解散させられた教団から派生した新興教団の一つに警察
庁公安から一人の男が潜入させられた。サリン事件首謀者として死刑執行を前に
した元教祖が病死した。元教祖の遺骨争奪を契機に騒乱が起こる恐れがある。
次々と起こる作業員襲撃事件。かつての黒江の上司古池慎一郎が新興教団への
侵入工作途上に瀕死の重傷を負う。恋慕の情を抱く黒江は死の淵をさ迷う古池の
恢復に手立ての限りを尽くす。そしてそこに起こる「13階」の指揮を巡る上司の
権力争い。次いで潜入者救出を巡る熾烈な抗争が繰り広げられる。
黒江の泣き所は新興教団に入信した母、教祖直属グループに潜入させた妹の動
向。目まぐるしい事態の展開に読者も付いていくのが容易ではない。
(以上この項終わり)