読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

道尾 秀介の『球体の蛇』

2019年11月02日 | 読書

 ◇ 『球体の蛇

  著者:道尾 秀介     2009.11 角川書店 刊



 これは主人公(私・智彦)が少年から青年に脱皮する過程を描いた「青春の門」で
ある。
 
 友彦は幼いころに両親が離婚、どちらにも捨てられて、隣の家に引き取られて育っ
た。隣の橋塚家には主人の乙太郎と妻の逸子、サヨ、ナオという同世代の娘がいて、
兄弟同様に過ごした。

 サヨは友彦より歳が上でちょっと変わってたが、家族で行ったキャンプで火災が発
生し、母親の逸子トサヨは大やけどを負った。逸子はそれがもとで死んだあ。そして
サヨもまもなく縊死した。友彦のせいで。
 橋塚乙太郎はシロアリ駆除を仕事にしていて、高校生になった友彦は土日にはアル
バイトとしてこの仕事を手伝った。ある日から休憩場所のふ頭から白いワンピースで
自転車を駆る女を見て気に掛けるようになった。悲劇のスタートである。

 シロアリ駆除勧誘がきっかけで白い自転車の女(智子と知った)と言葉を交わすこ
とになる。その家の男との関係を知るために、ある夜勝手知った床下に忍び入り、彼
女と男の男女の秘事を聴く羽目に陥る。智子と言葉を交わし、唇を合わせる中になっ
た友彦は、ある日、あろうことか父親同然に思っていた乙太郎と智子が、裸で絡み合
う現場を見てしまう。ショックを受けた友彦は大学受験の勉強も手につかず自暴自棄
のような毎日を過ごす。

 「自らの力では手に入れられないものを欲しがったり、ありえない未来を想像して
身を震わせたり、そんな日とはもう名残さえ見つけらえなかった。」(p197)
 同じ家に住むナオは友彦より年下であるが、なぜか一緒に住む男二人が同じ女性と
関係しているというおぞましい(ばかばかしくて情けない)やめて現実を知っていて、
「もうあの女と会うのはやめて」と友彦を諭す。

 そのうち智子は自殺する。友彦はその原因を知っている。彼が智子に対し彼女が捨
てたタバコの火がサヨと逸子のテント火災の原因だったと責めたことがあったから。
 ナオは友彦が智子に舞い上がっているときも、落ち込んで荒んでいるときも、常に
冷静に見守っていた。友彦が好きなのに。この冷静沈着さはやや異様である。
 
 ナオはキャンプン火災は実はサヨが自分で花火に火をつけた失火だったと打ち明け
る。友彦は自分の軽率な追及で智子を死に追いやったことを知り苦悩する。
 サヨが自殺した原因も自分のせいである。あの日「僕はサヨと結婚する」と言った
から。顔にやけどを負って醜い姿になって結婚もできないサヨはかわいそうだからと
いう思い上った気持から。サヨにそんな同情がたえられななかったのだ。
 僕は二人を殺した。

 「トモん。ナオと一緒になってくれ」と言っていた乙太郎はがんで死んだ。結局ト
モ君はナオと一緒になって子供を設けた。あっけない結末だった。

                            (以上この項終わり)
 

 
 


 

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