◇ 『82年生まれ、 キム・ジヨン』
著者: チョ・ナムジュ
訳者: 斎藤 眞理子
2018.12 筑摩書房 刊
著者は1978年生まれという。本書はカウンセラーが主人公1982年生まれのキム・ジヨ
ン氏と夫のチョ・デジョン氏の話を元に整理したことになっているが、キム・ジヨン氏は
多分著者の分身であろう。
韓国内は元よりアジアを初め欧米各国でも翻訳が決まっているという。
20世紀以降女性の開放が進んでいるとはいえ、未だ儒教の教えが隠然たる影響力を残し
ているという、韓国における一人の女性の男尊女卑の因習・陋習との闘いの記録である。
ここに綴られている韓国の社会、家族内での男と女の扱いがこんなにも違っていて男た
ちが未だにこれを余り不思議に思っていないことに驚いた。まるで戦前の日本における家
父長制の姿を見ているようである。小さい頃から慣れ親しんだというか家族内で共有され
た価値観だからであろう。しかし極論かもしれないが、かつて100年前日本で平塚らいて
う等青踏派の女性たちが声を上げたように、女性たちへの不公正で不当な扱いに声を上げ
始めている。そんな変革の流れがこの小説の大きなテーマである。
男優先の社会構造。生まれる子がまた女と分かったとたんに中絶を選ぶという社会構造。
いびつな男女比この時代の韓国にあって、ガラスの天井を打ち破るべく死に物狂いに戦っ
ている女性はほんの一握りなのかもしれないが、本書にも描かれているようにその後ろに
は数多の後続の兵士がいる。
それにしてもキム・ジヨン氏の就活の場面を読むと気の毒でならない。女性に対する世
の中の不公正な扱いに憤りながらも懸命に、健気に努力してる多くのキム・ジヨン氏に頑
張れとエールを送りたいのである。
(以上この項終わり)