読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

J・F・フリードマ ンの『第一級謀殺容疑』<上>

2024年06月26日 | 読書

◇『第一級謀殺容疑』 (原題:AGAINST THE WIND)<上>

   著者:J・F・フリードマ ン(J・F・FREEDMAN)

   訳者:二宮 磬    1991.11 新潮社 刊 (新潮文庫)

    本作はタイトルにある通りいわゆるリーガル・サスペンス(法廷もの)
である。法廷ものと言えばジョン・グリシャム、スコット・トゥローな
どが有名である
が、彼らの作品に決して引けを取らない面白さがある。
それは対象事件の異常さ、法廷での丁々発止のやりとりの面白さもさる
ことながら、主人公の弁護士ウィル・
アレクサンダーのキャラクターが
醸し出す空気がハードボイルド的で、マッチョでありながら時折自虐的
な内心の吐露があったりして
読者を惹きつける。
 作品中段では問題死刑囚が入っている刑務所で暴動が起き、受刑者側
から州側の交渉役にはウィルが付くよう要求された。その事件現場の詳
細が実に迫力満点で語られるやや異色なリーガルサスペンスである。


 物語の舞台はアメリカ中西部ニューメキシコ州サンタ・フェ。ハーレ
ーで旅を続けるあるライーダー集団の4人がテキサス州境近くで州警に
停止を命じられ武装強盗容疑で逮捕された。
 ライダー集団の頭ローン・ウルフは辣腕刑事弁護士として知られたウ
ィルに弁護を依頼する。ウィルは飲酒がらみの素行に問題が多く、弁護
士事務所のパートナーから外されかかっている。金も欲しい。ウィルは
弁護を引き受けた。

 ところが事は一転重大事件に関わってきた。サンタ・
フェの近郊林の
中で男性の惨殺死体が発見された。男性器が切り取られ口の中に押し込
められているという猟奇的事件だった。数日前に市内の酒場でその男に
会っていたと思われる4人組ライダーが第一容疑者として浮上、再逮捕
された。
 世間ではライダーは狂暴で無法者で恐ろしい人間と思われている。ラ
イダーらから状況をつぶさに聞いて、殺しはやっていないという彼等の
言は信用できると感じとったウィルはこの事件の弁護を17万5千ドル
で引き受けた。
 
 ところが細かく状況を聞いていくと4人は酒場である尻軽女と知り合
い、丘の上に連れて行ってかわるがわる性行為を重ねた。合意の上でレ
イプではないという。

 警察は酒場の閉店後バイカーが女を連れて丘の方に出て行った事実を
重視、徹底的に女を探し回り、リタ・ゴメスという女を拘束した。リタ
は丘の上でバイカーらが男を刺し殺したのち頭を撃ったと証言する。州
検事はこの証言をもとに第一級謀殺容疑で大陪審を開く。

 ウィルは3人の優秀な弁護士を選びそれぞれの被疑者を割り当て、弁護
に臨む。ウィルは親玉のローンウルフを担当し、久々の大舞台で被疑者た
ちの無実を証明
すべく奮闘するが、リタはライダー連中に手ひどいレイプ
を受けたという主張が陪審員を強く掴み、詳細な現場目撃証言と検視医の
剖検所見とが正確に符合する検tおの察側主張が壁となって、リタの証言が
ライダー4人の行動と時間的に符合しないとの弁護側の指摘もあえなく、
異例の4日に及ぶ陪審員の協議を経て、結局4人は第一級謀殺で有罪の評
決だった。

 久々の世間の注目を集める裁判で大敗北を喫したウィルは弁護団の女性
弁護士メアリー・ルーとの関係深化を望むも気もそぞろになって、大いに
落ち込む。
 ウィルは自他ともに認める大酒飲み(好みはジョニ黒)で女たらし。謙
虚さに欠け、大げさな感情表現を好むタイプ(本人自認)。
目下妻のパトリシアと離婚協議中で、父親っ子のクローディアと会える時
間を最優先する中年男(40歳)である。
ここまでが上巻。
                       (以上この項終わり)

 

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