読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

月村 了衛の『十三夜の焔』

2023年03月01日 | 読書

◇ 『十三夜の焔

         著者:月村 了衛   2022.10 集英社 刊

 

 江戸幕府御先手弓組幣原喬十郎は親戚の法事の帰路、湯島切通町で男女二
体の死体に出くわした。傍らに匕首を手にした若い男が佇んでいた。男の目
には涙が。誰何した幣原に応えずその剣を躱した男は十三夜の月影に消えた。 
 死んでいた男は口入屋國田屋庄右衛門と下女のおたきと判明した。若い男
は盗人の頭目代之助一味の駆け出しの一人、千吉らしい。

 これが幣原と千吉の運命的な出会いである。幣原は御先手組の面目にかけ
ても千吉を探し出し捕縛したい。町方の捕り物騒ぎに遭遇した幣原の前に何
と千吉が現れた。千吉は先頃の出会いの事情(恋仲おたきは既に殺されてい
た)を説明し消えた。

 それから10年の月日がたった。幣原は亡くなった父親と同じ御先手組組
頭になった。結婚し娘志乃が生まれた。
 一方ひょんなことから行き当たった千吉はいつの間にか、利兵衛に名を変
え本両替商銀字屋という店の当主となっていた。何とこれまた結婚し女児
(おりん)を儲けていたのである。

 幣原は勘定奉行小笠原長幸と結びついて銭相場を操る盗人一味の悪だくみ
を暴こうと火付け盗賊改め方長谷川平蔵と組んで一味の捕縛を図っていたと
ころ、幣原に恨みを持つ千吉は闇の頭に手を回し、老中太田備中守資愛から
横やりが入り佐渡奉行の下役に追い払らわれた。
 長谷川平蔵にまで裏切られたのであった。

 それからさらに12年の月日が経った。幣原は御勘定方の西丸若年寄小笠
原貞温の引きで御目付役に就任した。

 勘定奉行小笠原は幕府の財政建て直しと称して御用金取り立てと小判の吹
替えを企んでいた。庶民のさらなる困窮をもたらす吹替えを阻止するために
勘定方のたくらみを断念させようと画策する幣原と利兵衛が手を組むところ
が見せ場。背景には田沼意次と松平定信の確執があった。

   面白いのは時代小説ではおなじみの長谷川平蔵(火付盗賊改役)や遠山金
四郎(北町奉行=遠山の金さん)が登場すること。特に長谷川平蔵とは一緒
に立ち働いたものの、老中太田資愛に進言の折り彼に裏切られ不信感を抱く
場面があり面白い。
 老中田沼意次派と老中松平定信派の妄執の果てと、幕府勘定役が支配下の
両替商と結びつき私欲に走る悪事を暴くのが大筋であるが、息詰まる撃剣場
面もあり楽しめる。
                       (以上この項終わり)

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