◇『言ってはいけない 残酷すぎる真実』
著者:橘 玲 新潮社 刊 (新潮新書)
作者は「まえがき」でいっている。テレビや新聞、雑誌には耳障りのいい言葉が
満ち溢れている。メディアする生j化や学者、評論家は「いい話」と「わかやすい話」
しかしない。ダーウィン、メンデルが唱えた旧時代の進化論は現代のテクノロジーの
急速な発達に支えられた分子遺伝学、脳科学、ゲーム理論、複雑系など「新しい知」
と融合し、人文科学・社会科学bを根底から書き換えようとしている。専門家であれ
ば常識の話を誰もしようとしない。黙殺されるか排斥されていく。みんな見たいもの
だけ見て、気分のいいことだけを聞きたいのだから。
だから「言ってはいけない」とされてる残酷すぎる真実こそが、世の中をよくする
ために必要なのだ。これが執筆の動機である。
というわけで真実であるがゆえに本書で述べられたことにはすべてエビデンス(証
拠)の文献が挙げられている。
以下論説の一部を抜粋してみよう。
Ⅰ努力は遺伝に勝てないのか
<馬鹿は遺伝なのか>
「頭の良し悪しは生まれつきか環境次第か」
「子供の成績が悪いのは親がバカだからだ」は公には口にしてはならないとされてい
るが、ここには成績は努力によって向上しなければならないという暗黙の社会規範が
働いていて、学校教育の中で努力が実を結ぶというお話が必要とされるために暗黙の
裡に遺伝に否定的である。
行動遺伝学では、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%
つまり知能の違い(頭の良しあし)の7~8割は遺伝で説明できるとされている。
Ⅱあまりに残酷な「美貌格差」
<美醜格差の最大の被害者とは>
美形の男性は並みの容姿の男性より4%収入が多い。女性の場合プレミアムは8%。
つまり平均より美貌だった女性は平均より収入が8%高く、平均より下の女性は4%
収入が少なかった。生涯賃金で計算すると美醜格差は3,600万円ということになる。
(経済学者ダニエル・ハマーメッシュ)
Ⅲ子育てや教育は子どもの成長に関係ない
<親子の語られざる真実>
「子供はなぜ親の言うことを聞かないのか」
それは子どもは親よりも子供の世界のルールを優先するからである。親が影響力を
行使出来るのは宗教や味覚のように友達関係の対象外になっているものだけなのであ
る。(心理学者ジュディス・リッチ・ハリスの研究)
「美醜格差の最大の被害者とは」に関する筆者の論説は妥当性に異論があるのでこ
こでは触れない。
(以上この項終わり)