読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

アンドリュー・バックスの『嘘の裏側』

2022年12月06日 | 読書

◇『嘘の裏側』(原題:FALSE ALLEGATIONS)
 
  著者:アンドリュー・バックス(ANDREW VACHS)

  

       アウトロー探偵バークシリーズの第九弾。本作でバークシリーズは生まれ変わ
 った。
  本作では具体的な敵役はいない。一貫して幼児虐待問題を告発している作者の
 創作姿勢の一環であり、今回も後記として巻末にベイラー医科大学のIVITAS(チャ
 イルド・トラウマ・プログラムズ)への支援を訴えていることからも強烈な問題意
 識がうかがえるのである。

  そんなバークにグループの伝言中継点のママから弁護士のカイトという男から
 仕事の話が入った。今は探偵仕事はやっていないと断ったが、バークの腕前を見
 込んでのたっての頼みということで話を聞いた。
  カイトは自分が真剣な仕事をしている真剣な人間であることを証明して欲しい
 というのだ。今手掛けている案件に加わってもらいたいという。
 「4歳の男の子に性的虐待があったかどうか探りだしてほしい」という話。
 (実際はジェニファーという外傷性ストレス障害の25歳の女性とジェイコブと
 いう教会牧師を巡る幼少時の性的虐待の問題を尋問の熟練者バークの助けを得て
 訴訟に持ち込む仕事だった)
  
  バークには少年院、里子先での虐待、刑務所での暴力・虐待などその世界の実
 態には豊富な知見がある。
  バークの仕事仲間にはヌードダンサーのシビル、情報通のモグラ、豊富な知識
 の持ち主プロフ、元検事のウルフ、セラピストのリリイ、警官のモラリスなど多
 種多様な人脈があり調査活動には抜かりはない。

  カイトが真面目で優秀な弁護士だということも分かった。
  ジェニファーからの事情聴取で牧師のブラザー・ジェイコブの正体も分かった。
 カイトは綿密な作戦を立て、訴訟に持ち込んだ。告発は性的虐待、法的強姦、異
 常性行為、強要、感情的苦痛強要、暴行、不法接触、聖職者違法行為等々半ダー
 スもの罪状に及んだ。
 
  ところが裁判に入ると…。信じられないことが待っていた。

  米国では毎年何百万人もの子どもが性的虐待の犠牲になっているという。加害
 者は子どもの潜在能力の何割か、子ども自身の極めて重要な人間性の一部を奪う
 ということは間違いない事実。
  作者は一貫してこうした社会の害毒の根本的な原因が世代にまたがる子どもの
 虐待にあることを指摘し、作品を通じて告発し続けている。
                           (以上この項終わり)

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