2005年8月17日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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先日ヤマハの名古屋店時代のお話をした時に、イエペスの公開レッスンの話が出ましたが、今日はそのお話を致します。

その頃イエペスは4年に一度くらいの割合で日本に来ていました。当時イエペスは私にとってギタリストの枠を超えた演奏をする演奏家として最も好きな、そして尊敬するギタリストの一人でした。そして私がヤマハに入社して3年目の年にイエペスが来日することが分かりました。私は思い切って小原安正先生に電話をして恐縮しながら公開レッスンの可能性をお聞きしました。数日後OKが出ました。私は飛び上がって喜びました。

公開レッスン当日、私は憧れのイエペス先生と小原先生をお迎えに名古屋駅まで行きました。ホームで列車の入ってくるのをドキドキしながら待っていました。自分でだんだん興奮が高まっていくのが分かりました。列車が到着してお二人が降りてきたとき、私は"Mucho gusto, Maestro!"(はじめましてマエストロ)と大学時代に習ったスペイン語で挨拶をして手を差し出しました。

ホテルにチェックインするとき一つ驚いたことがあります。
イエペス先生は宿泊者カードに記入するのにルーペを取り出して字を書き始めたのです。小原先生によると、彼はひどい近視でめがねを掛けていても殆ど見えていないそうなのです。従って新曲を練習するときには先ず楽譜を暗譜してから練習するのだそうです。しかも楽譜を目の数センチ前に持ってきてあたかも匂いを嗅ぐように。

公開レッスンは私は司会をしながらトップバッターで受講しました。曲はソルの魔笛。ここで詳細をご報告することは出来ませんが、それはもう目からウロコ状態、驚き桃の木、山椒の木状態でした。私のギターをイエペスが「チョット貸しなさい、こう弾くんだよ」と弾くと、「これが僕のギターの音?」と言うような信じられない音がしました。バッハの曲で受講した人もいましたが、イエペスは「どこそこ博物館にある鍵盤用の自筆譜はこうなっていて、どこそこ博物館にあるバイオリン用のオリジナル譜はこうなっているので、ギターではこう弾くのがよろしいでしょう」とそれはもう誰もが納得するしかないと言うか、とてつもない説得力なのです。

そうして楽しい打上げ。ここでは更に二つ驚きました。イエペス先生の手と私の手を比べると私より小さいではないですか。私も小さい手なのでハンディがあるんだと人に言ってきましたが、イエペスはもっと小さい手で10弦ギターを弾きこなしていたんです。それ以来手が小さいことをハンディだと人に言えなくなりました。
もう一つは暗譜の事について質問すると、昔イエペスが暗譜の勉強を始めた最初の曲がなんと、ストラビンスキーの春の祭典のオーケストラスコアと言うじゃありませんか。私はもう無言でした。そして彼はこう付け加えたのです。「私はバッハの受難曲全曲、モーツァルトのシンフォニー全曲、そしてベートーベンの交響曲全てを暗譜しています。だから今でも棒を振れます。」これには参りました。ギタリストを超えた演奏家として評価を受けている理由、裏付けを見た思いでした。

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今日も吉本光男さんに登場していただきます。
うらやましいお話です。

4~5年位前からいくつもの曲に対して「このように弾きたい」というイメージが、まるで終わりのない万華鏡の世界の様に次々にひろがってきます。実は自分でも驚いているのですが、日々の練習が実に楽しいのです。イメージに添って思いのままに表現していると、日常を超えた時間が流れていくのを感じます。自分で弾いているメロデイーを、二分化したもう一人の自分が静かにそばで耳を傾けているという状況。分かってもらえるでしょうか。その中で何時間も練習していると、もはや、弾いている自分も二分化した自分も消え、広い宇宙の中で、紡ぎ出された音楽だけがまるで宇宙との交信ででもあるかのように私に聴こえてくる瞬間がやってきます。徹底して集中した時間が私の中を流れているとき、紡ぎ出された音たちは永遠の距離を一瞬にして駆け上がり、ちいさなきら星になっていくような気さえするのです。(もしかしたら宇宙の意志と響きあう波動をもちはじめたのかな?)

うれしい実感です。練習が楽しいというのは、言葉を換えるなら、弾くことを練習と思わなくなったということなのでしょう。

 一人一人個性のちがう皆さんが、私と同じ経験をすることは難しいことかもしれませんが、集中力を高めるという意味では「宇宙奏法」はなかなか威力を発揮してくれるのではないでしょうか。だまされた気分で一度試してみるのも楽しいかもしれません。宇宙との交信が飛来してくるかも。。。
                         吉本光男

 次回 PART8は 「伴奏への気配り」 を予定しています。おたのしみに~。


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