さすらうキャベツの見聞記

Dear my friends, I'm fine. How are you today?

生と死と

2009-12-03 22:37:56 | Thursday 生活
 今日は、死と、誕生に、触れた日だった。





 彼は、メガネをかけた、物静かで、落ち着いた雰囲気の長身の男性だった。

 いつも見かけるのは、ベッドの灯りで文庫本を読んでいる姿だった。
 最後に見かけたときは、口を開けて、どうにかこうにか呼吸をしているお人形のような姿だった。
 末期のガンで、脳meta(脳転移)となっていた。

 早朝から呼吸抑制が強まっていた。

 朝の忙しい時間に、その部屋のその人のところからナースコールが鳴った。
 彼が鳴らすことはできない。
 そこでケアをしていたスタッフが助けを必要としている、というサイン。
 必要なものを持って行き、
 彼の担当のNsに声をかける。
 目は開かれたまま、刺激にも反応せず、
 モニター上、酸素濃度はもう拾えず、
 波形も伸びており、
 かろうじて弱々しく触知できた脈も、
 水銀計で血圧を測ろうとしたときには、もう触れることはできず、
 あっという間に、




 アレスト(心停止)。





 モニターがけたたましく、あちらとこちらとで鳴った。
 だが、彼は静かに逝った。

 ーDNAR(do not attempt resuscitation;心肺蘇生禁止)となっている―


 いくつかの管が抜かれ、
 目を閉じさせ、
 蒸しタオルで暖めてからクレンジング・マッサージクリームで丁寧に顔を拭き、
 美容液を塗り、
 電気かみそりでひげをそった。
 本当に、静かで穏やかな表情をしていた。
 以前の彼が、そこで眠っているようだった。
 身体が、だんだんと冷えていくことと呼吸がないこと、さえ、除けば。


 その後どうするか決定され、担当のNsらで身体も丁寧にきれいにされ、
 身づくろいをし、
 布をかけられ、そして、彼は見えなくなった。













 その子は、生まれてまだ数日の女の子。
 無事に、元気に、生まれてきた。
 お兄ちゃんのこともあったから、生まれてくるまでは心配だった。
 可愛い女の子が生まれてきた。

 お母さんは疲れていたが、赤ちゃんを優しく揺らしていた。
 赤ちゃんって、こんなに小さかったっけ、と思いつつ抱かせていただくと、
 すぐ、ぐずりぐずり、ふぇんふぇん、と泣き出し、そのうち、
 大きな声で叫んだ。
 バトンタッチするが変わらず、
 結局、お母さんの腕の中に戻って、あやされているうちに、
 その子は、またおとなしくなった。

 柔らかで、温かいその子の手。
 手タレ(=手だけのタレント)になるんじゃないかしら、と嬉しそうにお母さんは言った。
 確かに、とてもきれいな形をしている。
 もちろん、冗談だけどね、とお母さん。
 だけど、これだけは確かだ。

 その子のお兄ちゃんたちと同様、
 その子も、某所でのアイドルになるってことは。


 元気に育ってほしい。



 ・・・主様からの祝福が、豊かにありますように 
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