それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

生まれ変わり2

2011-01-30 19:17:00 | ツクリバナシ
僕がもらわれたのは、エミちゃんと、おばあちゃんの二人暮らしのお家でした。

まだ子犬だった僕とエミちゃんは、大の仲良しでした。

僕は毛がふさふさの真白で、おばあちゃんはよく「こういうまっ白い犬はね、次に生まれ変わるとき、人間になるんだよ」と言っていました。

エミちゃんは寝るとき、いつも僕と一緒でした。泣きべそをかいて帰ってきたときも、上機嫌で帰ってきたときも、さびしい夜もいつでも。



エミちゃんが成長するより早く、僕は大きくなりました。とても大きい犬で、近所からは「クマさんみたいだねえ」と言われるくらいでした。

自分で言うのもなんですが、僕はすごく利口な方で、近所の人にも可愛がられていました。

エミちゃんが大学生のとき、僕はもうかなりの歳をとってしまいました。

でも、エミちゃんはいつでも僕を散歩に連れて行ってくれました。

エミちゃんのお家は裕福ではなかったから、彼女は高校生の時も一生懸命アルバイトしていました。

勉強とアルバイトととても忙しかったのに、それでもエミちゃんが僕を構ってくれない日はありませんでした。

一生懸命勉強して入った大学で、エミちゃんは法律の勉強をしていて、将来は弁護士になるつもりだったみたいです。



大学生になってから、エミちゃんは初めて男の人と付き合い始めました。

ゼミの先輩だったそうです。

家に来た人はとても優しそうな人でした。

その人、最初は僕を見て怖がっていたけれど、段々慣れてきたみたいで、僕とふたりでいても大丈夫になって、よく撫でてくれました。

でも、その男の人とエミちゃんが仲良くなってから、少しずつ僕と過ごす時間が少なくなって、それでおばあちゃんと過ごす時間も少なくなって。

僕とおばあちゃんは、なんだか寂しい気持ちでした。




でもある日、おばあちゃんが急に倒れてしまったのです。

エミちゃんがいなかったから僕はワンワン吠えて人を呼んで、それでおばあちゃんは助かったのだけど、もうおばあちゃんにはそれほど時間が残されていなくて。

エミちゃん、とっても悲しそうでした。

「私、ひとりぼっちになっちゃったらどうしよう」っていつも言っていました。

とてもとても残念なことに、僕にもそれほど時間が残されていなかったのです。

僕は徐々に起きていられなくなり、日に日に弱っていきました。

おばあちゃんが亡くなった翌日、僕もとうとう神様に召される日が来ました。

その日、エミちゃんと彼氏がずっと僕の傍にいてくれました。

意識が朦朧とするなかで、僕は彼氏に「エミちゃんをどうぞよろしく・・・」と伝えました。

たぶん、彼氏には届かなかったと思います。人間だから。

それに彼氏もまだ若くて、降ってわいたような責任の重さに戸惑っているような様子でした。



僕が神様のところに行く直前、小さい頃のエミちゃんと、子犬の僕が遊んでいる姿が見えました。

僕を抱っこして眠るエミちゃん。僕を撫でながら学校であったことを話してくれたエミちゃん。一緒に散歩して僕がいつも守ってあげたエミちゃん。

僕はエミちゃんのことが大好きでした。

一人にしてごめんね、エミちゃん。どうぞ彼氏と仲良くね。僕も見守っているからね。忘れないでくれたら、いつでも。

もし、おばあちゃんの言うとおり、僕が、白い犬の僕が人間に生まれ変われるのなら、もう一度エミちゃんに会いたいです、と最後に神様にお願いして、僕は眠りにつきました。



「で、そういうわけで、今回生まれ変わって、またあなたの元に帰ってきたわけなんです。」

彼はそう言って話をまとめた。

彼女はその異常に具体的な話に驚くと同時に、少し感動して目に涙をためていた。

しかし、である。

「確かに話は興味深いけど、それが本当だとは、私到底思えないんだよなあ・・・。私、エミちゃんじゃなくて、サオリだし・・・。どうして私がそのエミちゃんだって思うの?」

彼女の名前はサオリであって、エミではなかった。だが、自称「犬の生まれ変わり」の彼はなかなかひかない。

「思い出したんです。本当なんです。嘘じゃないんです。匂いで分かるんです。エミちゃんの匂いなんだもん。だからきっと・・・たぶん。」

「たぶん、でしょう?でも、まあどっちでもいいわ・・・。最初に言ったように、私、彼氏がいるの。」

「またかぁ、あの時もそうだったんだよなあ・・・。先輩ですか?」

「だから、私、エミちゃんじゃないからね。」

彼女は笑ってそう言った。ここまで来ると、逆に面白い。笑うしかない。ネタだろ、本当はネタだろ。口説くためのウソだろ。彼女はそう思ったが、しかし猫の夢のこともあって無下にはできなかった。

サオリの彼氏は先輩だが、ゼミの先輩ではなく、バイト先の先輩だった。

万が一、自分がエミちゃんの生まれ変わりだとしても、今の自分は猫の生まれ変わりの自分を優先したい。だって、彼氏はその飼い主かもしれないわけだし、今のままで十分幸せなのだから。

それに飼い犬だったと主張されて、「はい、そうですか」と付き合うわけにもいかないから、結局、友達として連絡を取り合うのが妥当だろう。

「・・・そうですよね。僕もあなたとは付き合うっていう感じじゃないんですよねぇ。なんていうか、ファンというか。いや、元飼い犬というか・・・。」

「そうだよ。あなたはあなたで、自分の幸せを探しなさいよ。犬の生まれ変わりの女性とか、なんかいるはずじゃない?」

「いや、もう僕は人間ですから、犬の生まれ変わりにこだわる必要はないんで。」

生まれ変わりの話にこだわっていたのはお前だろ!とサオリは突っ込んだ。

それにしても、一体猿の彼はどんな話をしてくるのだろうか。

そして、キジはいつか出てくるのだろうか。

そんなことを思いながら、それがあまりにもバカバカしいと思いながらも、サオリは何となく、この数日のことを楽しんでいた。



おしまい