それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

子守話「佐藤さん家のピアノ」

2011-01-15 23:15:07 | ツクリバナシ
最近僕が住んでいるフラットで起きた話を書こうかと思いましたが、それは後回しにして、今日僕が挑戦した料理の話も後回しにして、彼女に一番最近作った子守話をここに書いておこうと思います。

理由は、僕が即興で作ったわりにはよく出来ていると自分で勝手に思ったからです(笑)

絵のない絵本だと思って読んでください。「即興で作ったんだな」と確認しながら読んでください(面倒)。

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『佐藤さん家のピアノ』


 佐藤さんの家には古い、古いピアノがあります。それは佐藤さん家のママがお嫁入りの道具として持ってきたものでした。

 でも残念ながら、佐藤さんの家では誰もそのピアノを弾きません。誰もピアノを習っていなかったからです、

 そういうわけですから、ピアノはずいぶんとほこりをかぶっていて、音もずれてしまっていました。



 そんなある日、佐藤さん家の6歳の長男、さとし君がピアノをいたずらに弾いていました。

「ぴろん、ぱろん、ぴろん、ぱろん」

適当に叩いているだけで、音もずれているし、めちゃくちゃなものでした。

 その佐藤さんの家をたまたま作曲家を目指していた細野という青年が通りかかりました。

 細野は作曲家を目指してはいましたが、家にピアノがありませんでした。

 彼の頭のなかではいつも音楽が流れ、その音楽は譜面へと書き起こされていましたが、彼はその音を人に聴かせたことがほとんどありませんでした。

 細野は思い切って佐藤さんの家を訪ねました。

「ごめんくださあい。」

「はあい。何のご用でしょう?」佐藤さん家のママが出てきました。

 細野が照れくさそうに言います。

「突然押し掛けて、本当に失礼を承知でお願いしたいのですが、そちらにあるピアノを弾かせてはいただけないでしょうか?」

「ピアノをですか?」佐藤さん家のママは驚いてしまいました。

「僕は作曲家を目指しているのですが、家にピアノが無いのです。もちろん、ただではなくて、その・・・、音があまり合っていないようですので、そちらを僕が合わせます。ですから、少し弾かせていただけないでしょうか?」

 佐藤さんの家のママは相変わらず驚いていましたが、この作曲家志望だという青年がとても真面目そうだったので、ピアノを貸してあげました。



 細野はピアノの板をはずと、ポケットから何やらペンチのようなものを出して、そのピアノを調律しはじめました。

 ものの30分くらいで調律は終わり、細野はゆっくりとピアノを弾きはじめました。

「ポロロン、ポロロン、ポロロン、ポロロン。」

 それは、とてもとてもきれいな曲でした。

「ポロロン、ポロロン、ポロロン、ポロロン。」

 佐藤さん家のママはその曲に聴きほれてしまいました。

「お兄さん、それなんて曲なの?」

 細野は照れくさそうにしながら、答えます。

「これは、・・・そのお、僕が作った曲です。『夜の目玉焼き』という題名です。」

 消え入りそうな声です。

「本当にきれいな曲ね!!すごいわ、こんな曲を作れるなんて。しかもピアノがないのに!!一体どうやって作ったの?」

「何といいますか、頭の中に流れてくるんです。突然。これは夜、夜食に目玉焼きを乗せたトーストを作っていた時に思いついたんです。」

「変だけど、すごい!だから『夜の目玉焼き』ってわけかあ。あははははは。」

 佐藤家のママは細野をとても気に入ったので、その日からいつでもママが家にいるときは、ピアノを貸してあげることにしました。

 細野青年はそれから佐藤家と親しくなって、佐藤家のみんなのためにピアノを調律したり、演奏したりするようになりました。



 ところが、ある日をさかいに、細野青年は佐藤さんの家にぱったりと来なくなりました。

「どうしたのかしら、細野さん。」ママは心配していました。

「どうしたんだろうねぇ。」さとし君も心配です。

ぱったり来なくなってから、1年が過ぎたある日のこと、佐藤さん家のパパが朝、大声を出しました。

「ママ~、さとし~、ちょっとこの記事を見てよ!細野くんのことが出ているよ!」

「ええ!?どうしたの、細野さん何かしたの?」ママも、さとし君もびっくりしました。

「いやいや、ほら、この記事だよ。細野くん、あのイデミツ作曲大賞を取ったんだって!すごいよ。これは若手の作曲家なかでも、最も実力のある人に贈られる賞なんだから!」

「すごいねぇ、細野さん。」さとし君も感心します。

「よし、パパがインタビューを読んであげよう。どれどれ・・・、細野さんはねぇ、こう言っているぞ。

『この賞をいただけて本当にうれしく思っています。作曲家を目指す私にとって、この賞は何より励みになるものです。

しかし、この賞は決して私一人で得られたものではありません。佐藤さんのご一家のご協力なしには、私はこの賞を受賞することができませんでした。

この佐藤さんご一家のご厚意によって、私は幸運にも毎週、ピアノを貸していただけたのです。

この場をお借りして、佐藤さんご一家に感謝もうしあげます。ありがとうございました。』

どうだい?ママ、さとし。」

「嬉しいねぇ」「本当嬉しいわねぇ」さとしもママも大喜びです。

「次、また誰か家のものを借りに来たら貸してあげなきゃねえ。あはははは。」



その日以降、佐藤さんの家のピアノを借りに、作曲家志望の学生たちが大量に押し寄せてくることになるとは、まさか佐藤さん一家は夢にも思っていませんでした。



おしまい