「ええと、僕が今から言うことは、とても奇妙なことなんだけど、でも最後まで聞いてほしいのです。いいでしょうか?」
男の子は照れくさそうに、しかし神妙ぶってそう言った。
女の子は若干面倒くさいやつに引っかかってしまったという顔をしながらも、最後まで聞いてあげることにした。
男の子は純朴そうだったし、どこか憎めない感じだったから。
「あなたのことが好きです。」
そこまでは普通の告白だったのだが、
「その理由なんですが、」
彼は理由を言い始めた。
「僕はずっと前の前世で、あなたの飼い犬だったみたいなのです。」
女の子はあっけにとられた。好きだ、なぜなら前世で飼い犬だったから。聞いたことがない理由だ。
理由なら他にもあったはずだ。前世で恋人だったとか、前世で結ばれない兄妹だったとか。
なぜ犬なのか。人間ではなく、畜生ではないか。
「私と付き合いたいってこと?」
女の子は男の目をしっかりと見ながら言った。とても強い眼差しで。黒く長い彼女の髪が廊下の窓から入ってきた風でかすかに揺れた。
「いえ、そういうわけじゃないんです。飼い犬だったわけですから。」
大学は夏休みに入る間際で、閑散としている。その日常の空間のなかに、突如、妙な場が出来上がってしまった。
「じゃあ、私にどうしてほしいの?」
彼女の質問はまっとうだ。
「僕もどうしたいわけではないんです。基本的に友達になりたいんですが、何て言うか、それとも違うっていうか。でも、まずは友達からお願いします。」
彼の態度は曖昧だが、自分が飼い犬だったからと言って、今さら人間の関係なわけだからペットになるわけにもいかない。
「友達ねぇ・・・。友達って、ハイ今から友達になりましたってわけにはいかないからねえ。」
「ええ、そうでしょうね。でも、飼い犬だったわけですから。」
彼は確言した。しかし根拠は彼の頭の中にしかない。
「そんなこと言われても・・・。私は飼い主だったという確信、まだ無いからね!」
「とりあえず、今日はこのくらいにして、また今度食事でもどうでしょうか。具体的にどういう犬だったか、とかも話たいので・・・。」
そんなディテイルがあるのか、と彼女は思った。いずれにしても、この場を長引かせたくはない。不承不承、彼の言い分を受け入れ、その場を引き取った。
彼女はその夜、夢を見た。
自分が猫になっていて、飼い主の男性の膝の上でなでられながら眠っていた。
すごく温くて気持ちがいい。
この飼い主の顔はぼんやりしていたが、この人物が今付き合っている年上の彼だということだけははっきり分かった。
その映像はすごく懐かしくて、じんわり涙が出てきた。
しかし、彼女は猫なので「にゃー」しか言えなかった。本当は「ありがとう」と言いたかった。
起きたら涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。今日は彼に会いに行こうと彼女は決めた。
夜、彼女は年上の彼のところに行った。
ベッドのなかで彼に、自分の飼い犬だったと主張する若者の話と、今朝見た夢の話をした。
彼は笑いながら、彼女の髪を撫でた。
「君は猫みたいな人だから、確かに前世は猫だったのかもね。君の言うとおり、僕が飼い主だったとしたら嬉しいな。」
彼女も笑った。そして、もしかしたら、犬の話もあってるのかもなあと思った。
しかしそうだとしたら、猫以前か以後か分からないが、猫の生まれ変わりである自分が人間として犬を飼っていたということになるのか。
変だなあと思った。そして何だか笑えてきた。輪廻転生って本当にあるのだろうか。
いずれにしても、彼氏が自分の飼い主だったらいいのに、そして、ずっと一緒にいられたらいいのに、と思った。
また別の日、彼女はまたよく知らない男の子から告白された。
「あなたのことが好きです。」
彼女が黙っていると、彼は続けた。
「僕、前世、あなたが飼っていた猿だったみたいなんです。」
彼女は呆気にとられた。まさか犬に続いて猿か。
犬、猿、・・・キジ。
そして彼女は思った。
まさか・・・桃太郎だったのか・・・?
おしまい
男の子は照れくさそうに、しかし神妙ぶってそう言った。
女の子は若干面倒くさいやつに引っかかってしまったという顔をしながらも、最後まで聞いてあげることにした。
男の子は純朴そうだったし、どこか憎めない感じだったから。
「あなたのことが好きです。」
そこまでは普通の告白だったのだが、
「その理由なんですが、」
彼は理由を言い始めた。
「僕はずっと前の前世で、あなたの飼い犬だったみたいなのです。」
女の子はあっけにとられた。好きだ、なぜなら前世で飼い犬だったから。聞いたことがない理由だ。
理由なら他にもあったはずだ。前世で恋人だったとか、前世で結ばれない兄妹だったとか。
なぜ犬なのか。人間ではなく、畜生ではないか。
「私と付き合いたいってこと?」
女の子は男の目をしっかりと見ながら言った。とても強い眼差しで。黒く長い彼女の髪が廊下の窓から入ってきた風でかすかに揺れた。
「いえ、そういうわけじゃないんです。飼い犬だったわけですから。」
大学は夏休みに入る間際で、閑散としている。その日常の空間のなかに、突如、妙な場が出来上がってしまった。
「じゃあ、私にどうしてほしいの?」
彼女の質問はまっとうだ。
「僕もどうしたいわけではないんです。基本的に友達になりたいんですが、何て言うか、それとも違うっていうか。でも、まずは友達からお願いします。」
彼の態度は曖昧だが、自分が飼い犬だったからと言って、今さら人間の関係なわけだからペットになるわけにもいかない。
「友達ねぇ・・・。友達って、ハイ今から友達になりましたってわけにはいかないからねえ。」
「ええ、そうでしょうね。でも、飼い犬だったわけですから。」
彼は確言した。しかし根拠は彼の頭の中にしかない。
「そんなこと言われても・・・。私は飼い主だったという確信、まだ無いからね!」
「とりあえず、今日はこのくらいにして、また今度食事でもどうでしょうか。具体的にどういう犬だったか、とかも話たいので・・・。」
そんなディテイルがあるのか、と彼女は思った。いずれにしても、この場を長引かせたくはない。不承不承、彼の言い分を受け入れ、その場を引き取った。
彼女はその夜、夢を見た。
自分が猫になっていて、飼い主の男性の膝の上でなでられながら眠っていた。
すごく温くて気持ちがいい。
この飼い主の顔はぼんやりしていたが、この人物が今付き合っている年上の彼だということだけははっきり分かった。
その映像はすごく懐かしくて、じんわり涙が出てきた。
しかし、彼女は猫なので「にゃー」しか言えなかった。本当は「ありがとう」と言いたかった。
起きたら涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。今日は彼に会いに行こうと彼女は決めた。
夜、彼女は年上の彼のところに行った。
ベッドのなかで彼に、自分の飼い犬だったと主張する若者の話と、今朝見た夢の話をした。
彼は笑いながら、彼女の髪を撫でた。
「君は猫みたいな人だから、確かに前世は猫だったのかもね。君の言うとおり、僕が飼い主だったとしたら嬉しいな。」
彼女も笑った。そして、もしかしたら、犬の話もあってるのかもなあと思った。
しかしそうだとしたら、猫以前か以後か分からないが、猫の生まれ変わりである自分が人間として犬を飼っていたということになるのか。
変だなあと思った。そして何だか笑えてきた。輪廻転生って本当にあるのだろうか。
いずれにしても、彼氏が自分の飼い主だったらいいのに、そして、ずっと一緒にいられたらいいのに、と思った。
また別の日、彼女はまたよく知らない男の子から告白された。
「あなたのことが好きです。」
彼女が黙っていると、彼は続けた。
「僕、前世、あなたが飼っていた猿だったみたいなんです。」
彼女は呆気にとられた。まさか犬に続いて猿か。
犬、猿、・・・キジ。
そして彼女は思った。
まさか・・・桃太郎だったのか・・・?
おしまい