息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ

2014-04-14 10:45:06 | 著者名 た行
高橋由太 著

以前にやはりもののけものの『大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり』を読んだ。
そのときは、おもしろいなあ、でもちょっと軽いなあ、という感じだった。
で、今回このオサキシリーズに手を出してみたら、こっちが好み!
もうどんどん読めてしまって、ここしばらくは文庫版を読み尽くす予定。
高尚な時代小説を求めている人には不向きだが、お江戸の楽しいもののけ話を
楽しむなら最適だ。

さて第一作のこれは、本所深川で献上品の売買を行なう、献残屋が舞台だ。
オサキモチと言われる、憑物筋の周吉は、それゆえに地元にいられなくなり
両親も失って山中をさまよっているときに、ここの主人に拾われた。
手代として働き、懐のオサキのわがままに振り回される日々だ。
献残屋には古い道具やわけありの品も多く集まる。それらは長い年月のうちに
あやかしと変化し、おかしなことが起こることがある。
そんないわくつきの道具を集めたあやかし部屋に寝泊まりする周吉。
主人の娘・お琴は周吉に心を寄せている。

そのお琴が姿を消した。
周吉とオサキは夜の街を捜し歩く。
お琴はどこへ行ったのか?何が起こっているのか?
折々に周吉の身の上話も織り込まれて飽きさせない。

物語自体はリズミカルで、登場人物もキャラクターがはっきりしていて
とてもわかりやすい。
それだけではさらさらと流れておしまいということになりそうであるが、
裏付けの知識がしっかりしているので、それなりの説得力。
参考文献を見たら、結構読んでいるのばかりで笑えた。
もしかして、こういうのがダメな人にはくどいのかもしれない。
でもなあ、憑物とかもののけとかいざなぎ流とか、やっぱりちょっと
知識がないとなんのこと?ってなるもんなあ。

思い出のとき修理します

2014-01-15 10:11:13 | 著者名 た行
谷瑞恵 著

美容師という仕事にも恋にも失望し、小さな町の寂れた商店街へと
引っ越してきた明里。
そこは幼い頃、わずかな期間だけ預けられていた祖父母との思い出の場所。

老人ばかりが住み、もう開いている店すら少ない商店街の一角にある
時計屋には「思い出の時 修理します」という看板がかかっていた。

華やぎとも賑わいとも遠くなってしまった商店街。
それでも、昔ながらの人のつながりは残っている。

レトロとなってしまった店舗兼住宅での暮らしは、決して便利ではない。
でも不思議と魅力的だ。
そしてそんな暮らしは傷ついた明里の心をいやしていく。
時計屋さんとの静かな交流、間をとりもとうとしてくれる神社の居候大学生。
やがて新しい恋心が芽生えたとき、失っていた思い出がよみがえる。

明里がここに預けられていた理由。忘れようとした幼い心の葛藤。
なかったことにした記憶の中には、大切な宝物のような想いもまじっていた。

年齢的にも迷いが生じやすい頃。たくさんの分岐路があり、未来は見えにくい。
今まで進んでいた道が間違っていたと感じたときの虚無感はよくわかる。
頑張らなくては先へ進めないけれども、いつも同じペースで進めるわけじゃない。
ときに自分と向き合ってペースを落とす。
間違っていたなら回り道を探してみる。
まっすぐな道からはずれてしまっても、すべてが失敗ではないかもしれない。
自分自身のここ何年かの状況と合わせて、いろいろなことを考えた。

行き詰りって本当は自分が思っているだけかもしれない。

クッキング・ママと仔犬の謎

2013-12-22 10:52:40 | 著者名 た行
ダイアン・デヴィッドソン 著

ずーっと読み続けているこのシリーズ。
16冊だって!びっくりである。

トム・シュルツとの結婚ですっかり幸せいっぱいになったゴルディだが、
なんだかんだとトラブルに巻き込まれるのはいつものことだ。

ケータリングの手伝いをしてくれている友人ヨランダは放火により
焼け出され、大叔母・フェルディナンダとともに私立探偵のアーネストの家に
転がり込む。しかし、その家も不審火を出し、アーネストは死んだ。
そこに残されたのは9匹の仔犬。

ゴルディのすすめによってヨランダとフェルディナンダ、そして仔犬たちが
家にやってきた。
しかし、その日からゴルディの家の周辺にも不審人物がうろつきはじめる。

頼りになる警官の夫トム、その部下でヨランダに気があるボイド、
すっかり成長したアーチ、相変わらずお金持ちで太っ腹なマーラ。
いつものメンバーたちの魅力はもちろんであるが、美貌のヨランダ、
キューバからの移民である誇り高いフェルディナンダが醸し出す
雰囲気はちょっと異国の香り。そしていつものお楽しみ、料理にも
キューバの香りが漂う。

一年のうち雪の心配がないことなんかないのではないか、と思える
アスペン・メドウの町だが、厳しい季節の移り変わりはやはり美しい。
今回は、ゴルディの巻き込まれ方が自然というか、あまり強引さがなく、
いらつきがなくすんなり入り込めた。

これから新たな家族を迎えようか、という気持ちを持ち始めたゴルディとトム。
まだまだ続きそうなシリーズ、次が楽しみだ。

煌夜祭

2013-09-19 10:56:30 | 著者名 た行
多崎礼 著

第2回C★NOVELS大賞受賞。
十八諸島では、冬至の夜魔物が闊歩するという。

王島を中心に三重の輪になって島が回っている。
違う輪の島とは周期によって距離が変わる。
島々では蒸気塔をもち、その力で互いに行き来している。
なんとも不思議な世界。

「語り部」と呼ばれる仮面をつけた人が、島々の歴史や
人々の物語を語りながら旅をしている。
ある冬至の夜にであった二人の語り部が、互いに語り合う。

まったく関係ないような話のひとつずつが短編となっている。
しかし、読みすすめていくうちに、これが壮大な物語の
一部であることに気づくのだ。

世界観、設定、構成。どれをとっても秀逸だ。
ファンタジーなのだが、つくりものに終わらないしっかりとした
読み応えがある。

この世界に行ってみたいと思わせる魅力に満ちている。

きりぎりす

2013-09-14 10:42:41 | 著者名 た行
太宰治 著

おわかれ致します──そんな言葉から始まる女性のひとりがたり。
画家である夫との出会いから、結婚、そして彼の大成功まで、
そばにいた妻には、さまざまなものが見えていた。

学生の弟からまで心配されるほど、不安定だった当時の夫。
それでもその絵を愛し、苦労を厭わなかった妻。
いつかの成功を二人で夢見ていたはずなのに、実際にその階段を
登り始めると、二人の間には大きな距離が生まれた。

自信に満ち、成功者として振る舞う夫。
彼は次第に世慣れていくにつれ、人あしらいがうまくなり、
相手によって態度を変え、時にうそをつくようになる。
それはいわゆる“大人”になったということなのだろう。
いくら芸術家でも霞を食べては生きられないし、うまく
世の中と渡りをつけていくことが必要なのだから。

しかし、純粋な妻にはそれが許せない。
何の心配もなく裕福に暮らせているけれど、彼の絵の価値は
自分だけがわかる、と確信していた貧しい日々が忘れられない。
彼女にとっては、それは夫を理解者として独占した幸せな
日々だったのだから。

夫婦の成長が違う形であったこと、いつのまにか価値観が
すっかりずれてしまったこと。
これは多様化した現代の夫婦のあいだではもっともっと
起こるであろう問題だ。

彼女はそして別れを選ぶ。
果たしてこの手紙を読んで夫はそれを理解するだろうか。