息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

クレオパトラの夢

2013-02-26 10:34:14 | 恩田陸
恩田陸 著

MAZE』に次ぐ神原恵弥シリーズの第2弾ということなのだが、こちらが断然面白い。
というより前作は印象が薄くて思わず読み返した。結果やっぱり薄かった。
主人公・神原恵弥(めぐみ)はとてつもなく濃い強烈キャラなのだが。

恵弥は双子の妹・和見を連れ戻すために、北の地・H市を訪れる。
そこには和見の不倫相手である若槻がいるはずだった。
しかし、そこで行われていたのは彼の告別式。
すべてがこれで終わる、という和見の言葉とは裏腹に穏やかではない事件が次々と起こる。

そもそも恵弥は和見のためだけにここに来たのか?
見え隠れする追跡者たちの目的はなんなのか?
H市の歴史に包まれた大きな秘密と、それを利用しようとする大きな陰謀が錯綜する。

ちゃんとした裏付けがある事実をもとに構成されたミステリーは大好物なわけだが、
これはそのあたりがツボだった。
登場人物のキャラクターが個性的すぎること、あまりにも小さな人間関係でちんまりと
まとまってしまうことが、2時間ドラマっぽいチープな雰囲気をつくってしまったことは
残念だが、それはそれ。
むしろ2時間ドラマみたいなネタでここまで作りこんで読ませるのはすごい。

寒いけれど美しい北の街の描写もいい。
一度だけ行ったあの街の魅力がよく描かれている。

物語はすっきりと完結したけれど、登場人物たちがすんなり幸せになるためには癖がありすぎて
一筋縄で行かない感じがいやにリアル。おざなりなハッピーエンドでないところが大人的か。

メガロマニア

2013-02-21 10:38:19 | 恩田陸
恩田陸 著

ずっと昔から心を捉えて離さないマヤ文明。
その遺跡を自分の目で見るために、南米への怒涛の旅が始まった。
マヤ文明の基礎知識がきちんとおさらいしてあるし、それぞれの遺跡の背景も
ちゃんと書かれているし、そこまでの行程も含めてとても興味深い。

カリフォルニアからユカタン半島へ、そしてペルーの山岳地帯へ。
実にフライトのみで11回。
それ以外だって車での移動しっぱなし。
車酔いしやすい私にはひえ~という感じだ。
マヤ文明には正直興味がある。マチュピチュも一度は見てみたい。
しか~し、遺跡のすぐ下に延々と連なるヘアピンカーブ……無理かも。

このハードスケジュールを難なくこなし、自らの足と目とたくさんの写真とで
構成された本書だが、とにかく要素が多すぎて本当に記録という感じ。
それがよくもあり悪くもあり。
著者の目で見たストレートな感想は、飾り気もなにもないからこそリアルだ。
その一面で駆け足旅行のメモみたいになっていて、読み物としてはやや寂しい。
そんなものと思って読めば面白いから、個人的には大満足なのだが。

熱帯雨林の湿度とか、高地の薄い空気と強い紫外線とか、過酷な気候が
多いのだが、その後で飲む夕食時のビールの描写が秀逸。
この人の書くビール本当に美味しそうなのだ。
そして飲まずにいられなくなるというね。

中庭の出来事

2013-02-02 10:28:23 | 恩田陸
恩田陸 著

余韻がたっぷり残るミステリ。
きちんと頭を整理しながら読まないと、あっという間に混乱する。

というのも、構成が複雑。
入れ子というか、真偽が混じり合っているというか、
どこまでが現実なのかがわからないままラストに突入する感じだ。

だからきっと好みは分かれると思う。
わけがわからないまま、つまらなかったという人がいても不思議はない。
そもそもこれってケータイ文庫で配信されたとか。
ええ~っ、それはキツイです。
ちょこちょこ読んだら消化不良もいいとこだし、混乱の極みであろう。

脚本家が中庭で衆人環視の中殺された。
そこにいた女優は同じ中庭で犯人を追い詰め、犯人は毒殺される──
というところから始まるのだが、そもそもこれが実際にあったことなのか、
読み進めるうちにそこから疑問。

死んだはずの人が後ほど登場したり、前後の物語がひとつになってしまったり。
あらすじを語れといわれても、こんなわけわからないことになるので無理。

恩田作品の中でも、演劇がらみのものはあまり得意ではないのだが、
これはミステリ色が強いせいか、なかなか楽しめた。
でもお芝居好きな人のほうがより楽しめるかも。

黄昏の百合の骨

2013-01-04 10:04:18 | 恩田陸
恩田陸 著

不思議な少女・水野理瀬が登場する一連の物語。
時系列は「三月は深き紅の淵を」→「麦の海に沈む果実」→「黄昏の百合の骨」となる。

青の丘にある全寮制の学校を去った理瀬。
失った記憶を取り戻し、自分が背負ういわば世の中の暗黒面を引き受ける運命を理解した。
そして「理瀬に半年間住んで欲しい」という遺言通り、
かつて祖母が住んでいた長崎の洋館に身を寄せる。
ここは白百合荘と呼ばれ、いつも百合の花が香っていた。
別名・魔女の館。現在は理瀬の親族である梨南子と梨耶子が住んでいる。

いくら落ち着いていても15歳。不安や心の揺れはある。

理瀬が触れ合うごく普通の高校生たちの無邪気さ、必死さは
一方で理瀬が失い、二度と手に入らないものを見せ付けられるようでせつない。

同じ家に住みながら、騙し騙されていく一族。
青の丘にいた頃は飛びぬけた冷静さと聡明さを見せた理瀬であるが、
百戦錬磨の大人たちを相手にすると、やはり精彩を欠く。
見抜けないままに陰謀に巻き込まれていく。

ラストはあれっ?という感じ。
ありがちなんだけど方向が意外だったというか。

これからの理瀬がどう生きていくのか。どんな運命に出会うのか。
このシリーズ目が離せない。

ちなみにこれってオランダ坂とか活水女子学院がモデルだよね。
長崎出身としては懐かしい反面つっこみどころもあったなあ。

ドミノ

2012-06-29 10:05:14 | 恩田陸
恩田陸 著

入れ替わった紙袋から広がっていくたくさんの物語。
お菓子を買いに来たOLや趣味に興じる老人、子役の少女など、
どこにでもいそうで、お互いに何の接点もなさそうな人々、
なんと27人もが登場する。

意外なところでつながりあう接点がおもしろい。
個性的なキャラクターばかりだけれど、これだけ多いと
しっかり整理しつつ読むのがポイントとなる。

フルスピードで進みつつ、次々と違う人にスポットがあてられる。
くるくる変わる視点は、別の人物に変身したようでワクワクする。

すご~く丁寧に創り上げたたくさんのパーツを、きれいに並べて
一気に倒す! まさしくドミノ!
そしてこれはオチもすっきり。

あっという間に読めて読後感もいい。
でも、こんなに繊細な作品をこんな読み方してもいいですか?と
申し訳ない気分になる。
というわけでもう一回読もうかな。