「年金喫茶」と呼んでいる喫茶店で、男たちが新聞を片手に話していた。「オイオイ、これを見てみろ。70代の主婦の投書だけど、『突然【君に我慢し続けるより、好きな彼女と一緒にいたい。離婚してください】といわれました』だって。勇気のあるダンナだな」とひとりが言う。
向かいの男が「結婚して50年連れ添ったんだろう。オレなんか我慢の毎日だよ。年取ったらだんだん口うるさくて、私がいなかったら何にも出来ないんだから、たまにはお茶碗でも洗ってよとか、トイレの掃除をしてとか、とにかく要求が多いね。この男はよっぽどいい女が出来たんだねえ」と羨ましがって言う。
隣りの男は「夫婦なんてそんなものだ。カミさんだって我慢しているから愚痴が出るのさ。お互いに我慢しなくては夫婦は続かない。それが嫌なら別れるしかないが、70代だろう?、これからどうやって暮らしていけると思っているのかな。回答者はどう言ってるの?」と聞く。
「『離婚した方が良い。ここは人生の岐路と見定め、人生を考え直してみてはいかがでしょう』だって。逆説的な説得なのかな」と答えると、「どういう人?」と問われ、「精神科のお医者さん」と言う。「やっぱりね。離婚した先のことまで考えていないね、この先生は。70代のおばあさんがどうやって生きていくのかね」と否定的だ。
他人の人生の末路まで、真剣に議論している老人たちが微笑ましい。カミさんに「もう、あなたとは一緒に暮らせない」と、言い出されたらどうしようと考えているのだろうか。若い人たちはまだ将来があるから、離婚してやり直すこともあるだろうが、先の短い年寄りなら、このまま我慢して終わるしかないのかも知れない。「年金喫茶」での1コマだった。