実務家弁護士の法解釈のギモン

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担保権実行に債務名義はいらない?(3)

2010-04-30 10:37:50 | 民事執行法
 実は,以上の点は担保権実行手続の体系的な理解そのものに影響があると思っている。
 仮に,債権担保権(物上代位による差押も含めて)の実行において考えた場合に,事前に他の公的機関が担保権の存否について認定しておらず,書証によって執行裁判所自らが担保権の存否を認定するとすれば,その担保権の存否について,申立担保権者の提出する文書(書証)だけで認定するのではなく,債務者の反証の機会が必要だと思われるのである。そうでなければ,あまりに一方的な手続である。
 そして,担保権実行手続における執行異議,執行抗告では,手続違法だけでなく,担保権の不存在を理由とすることができる仕組みになっている。このことを,よく実体異議,実体抗告ということがあるが,この実体異議,実体抗告が反証の機会となっており,実質的な答弁の提出の場となっていると理解できると思われる。
 つまり,債権担保権の実行の場合,申立債権者は,「担保権の存在を証する文書」を書証として自由に文書の提出ができ,書証でありさえすればその範囲で立証活動が自由に出来ることになる。そうであれば,それに対する相手方の答弁の機会も与えないと不公平であり,その場が,実体異議,実体抗告だと理解せざるを得ないと思われるのである。もちろん,実体異議,実体抗告は,競売手続が開始(債権差押命令が発令)した後の手続であり,法律上は執行異議,執行抗告は,おまけのような位置づけのようでもある。しかし,私は,この実体異議,実体抗告は,事後的な答弁としてその位置づけを考えないと,担保権の実行の実体的正当性を保てないのではないかと思っているのである。実体異議,実体抗告は,それだけ重要な手続なのである。
 しかも,担保権には換価権が内在するといってみても,被担保債権の履行期が到来(または期限の利益を喪失)しないと,換価権を実行できないはずである。したがって,担保権の存否そのものの問題ではないが,現に実行可能な担保権の存否という意味で,実体異議,実体抗告の手続中で,被担保債権の履行期の到来も判断事項になるはずである。

 要は,担保権実行の申立に基づく裁判所の開始決定は,申立債権者が提出する文書のみによる一応の判断でしかないのであって,執行裁判所としての確定的な判断は,被担保債権の履行期の到来も含めて,実体異議,実体抗告を踏まえた判断が,確定的な判断ということになると思うのである。もし,相手方において実体異議,実体抗告をせず,あるいは実体異議,実体抗告をしてきても,そこで争点として争わない部分があれば,それは犠牲自白と同視して認識できると思われる。

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