goo blog サービス終了のお知らせ 

実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-原始的不能と損害賠償(2)

2015-08-05 10:07:13 | 債権総論
 改正案では、412条の2の第1項に履行不能の定義が置かれ、その第2項に「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四一五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」という規定が盛り込まれることになり、これが原始的不能でも契約を有効とする規定とされている。

 しかし、この条文を素直に読んだ場合、現行法の理解である「原始的不能=無効」という原理で理解することは不可能なのかというと、どうもそうでもないのである。
 なぜなら、現行法の理解である「原始的不能=無効」を前提としても、義務者の側の過失で履行不能な契約を締結をした場合、「契約締結上の過失」の法理により、義務者には損害賠償責任が課される可能性が認められているからである。ただし、通常の損害賠償であれば履行利益の損害賠償も可能とされているところ、契約締結上の過失による場合は、信頼利益の賠償に限ると言われている点に違いがある。これが、不法行為責任ではなく債務不履行責任であるならば(少なくとも多くの学者はそのように考えているはずであるが、判例が債務不履行責任と考えているかどうかは、やや疑義がある。)、その責任は415条に基づくものといわざるを得ない。
 そして、改正案の条文の位置が履行不能の定義と同じ条文の第2項であって、しかも効果として損害賠償しか規定していないから、読み方によっては、履行を求めることは不可能-つまり原始的無効-であるけども、例外として契約締結上の過失による損害賠償請求だけは債務不履行責任として認めた規定にも読めてしまう。もしこのような理解で考えれば、これでは現行法の学説と大して変わらない。

 このように、よく見ると、改正案の412条の2第2項は、「原始的不能でも有効」という前提でなければ理解できないような条文にはなっておらず、「原始的不能=無効」を前提に、契約締結上の過失に基づく信頼利益の損害賠償責任だけは認める規定とも読み込むことも可能なようなのである。

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。