実務家弁護士の法解釈のギモン

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担保権実行に債務名義はいらない?(2)

2010-04-27 11:20:14 | 民事執行法
 ところで,担保権実行手続において債務名義を必要とされない理論的な根拠は何か。よく言われるのは,担保権には実体法上換価権が内在しており,債務名義がないとしてもこの換価権に基づいて実行できるのだと説明される。しかし,このような説明が本当に正しいかどうか……。
 なぜなら,一般の金銭債権にも,自然債務のような特殊な債務でない限り,掴取権(掴み取ってくる権利)が内在しているといわれているはずであり,だからこそ,実体法上,債務不履行の効果として履行強制権(民法414条)があるといわれているのではなかったか。それでも強制執行をしようとする場合には,確定判決などの債務名義(民事執行法22条)を必要とする立法を採用しているのである。

 何を言いたいかというと,たとえ一般の債権にも掴取権が内在しているといってみても,その掴取権が内在している債権そのものをどのようにして認識するかということを避けて通ることは出来ないのである。それを認識するための制度が債務名義制度だと思われ,強制執行をするには,確定判決など,事前に公的手続で債権の存在が確認された文書の存在を要求したのである。
 そうだとすれば,担保権実行手続においても,換価権が内在している担保権そのものを,どのようにして認識するかという問題は,担保権に換価権が内在しているか否かという理論的な問題以前の問題として常に問題になるはずなのである。その上で,担保権実行手続について債務名義制度を採用しなかったとすれば,その理由は立法政策以上のものではないということにならざるを得ないのである。
 そして,担保権一般につき,債務名義のように事前に他の公的機関が担保権の存在を認定する手続がないとすれば,担保権の実行を決定する執行裁判所自らが直接担保権の存在を認定するしかないのである。それが,「担保権の存在を証する文書」だと思われる。かつ,以上のような理由で担保権実行手続に債務名義制度を取らなかったとすれば,この提出文書を準名義文書と捉えるのは矛盾であるといわざるをえないと思われる。
 したがって,提出文書の性質について,一般論とすれば書証説が正しいような気がしている。そして,証拠を「文書」に限っているとすれば,一種の法定証拠法則であり,不動産担保権の提出文書たる民事執行法181条1項1号乃至3号の文書,及び動産競売に関する同法190条1項1号及び2号は,さらに「特定の文書」に限った法定証拠と位置づけられるべきものだと思われるのである。


 なお,コメントを頂いたように,特殊な財団抵当等の中には,その実行に債務名義を必要とする手続も存在するようです。理論的にも非常に興味深い規定なのですが,ここではとりあえず担保権実行手続の原則規定である民事執行法の規定を前提に話を進めます。

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