実務家弁護士の法解釈のギモン

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建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分(3)

2010-11-01 11:03:23 | その他の法律
 私が学生の頃は,民法学者から,建物収去義務があるのは,建物の登記名義人ではなく,真の建物所有者であると習った。つまり,建物の登記名義人がAのままだとしても,現にBに売却されているとすれば,地権者はAではなくBを相手に建物収去土地明渡訴訟を提起しなければならないというのである。
 これは,おそらく物権的返還請求権の相手方は誰かと関連する。民法上,その相手方は当該物の占有者だと言われる。そうだとすると,土地上に建物を所有することによって,当該土地の占有を有しているのは,登記名義人Aというよりは,真の所有者Bだということになってくるのである。
 もしそうだとすると,地権者が登記名義人であるAを相手に建物収去土地明渡訴訟を提起しても,Aによって自らの占有を否認され,訴え提起前にBに売却したことの反証が成功すると,地権者は当該訴訟に勝てず,あらためてBを相手に訴えを提起する必要が出てくる。

 仮に,このことに間違いがないとすると,登記名義人はAであっても,すでにBに売却された後に建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分をしたとしても,収去義務のない者に対する保全執行となってしまうので,いわゆる,空振りの状況となってしまう。その結果,保全執行の効力をBに及ぼすことはできないはずである。
 これは,民事保全法64条の適用以前の問題である。民事保全法64条は,あくまでも保全執行時に,登記名義人が未だ真の所有者であることが前提の効力を規定していると理解せざるを得ないはずなのである。
 このように,登記という保全執行の方法を採りつつ,登記とは無関係に権利関係が決まっているかの如くである点に,わかりにくさが存在する。

 そして,もし以上のように考えてくると,建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分とは,保全執行そのものは登記をすることによって執行されるものの,いわゆる登記の効力の問題とは全く関係がないということになってきそうであり,結局は,建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分の執行方法として,登記という執行方法を特別に法定し,その効力も特別に法定したということになりそうである。だからこそ,民事保全法も,登記請求権保全のための処分禁止の仮処分とは別に規定しているということになるのであろう。

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