「あら、小奈津(こなつ)じゃない。久(ひさ)しぶり」
あたしはその声を聞いて身体(からだ)が震(ふる)えた。恐(おそ)る恐る振(ふ)り返ってみる。やっぱりそこにいたのは、
「菜津子(なつこ)…。どうして、ここに?」あたしの声はうわずっていた。
彼女と出会ったのは小学生の頃(ころ)。菜津子と小奈津。名前が似(に)ているせいで、あたしはいつも彼女の添(そ)え物(もの)になっていた。そりゃ、彼女は転校生(てんこうせい)で頭(あたま)が良くて、美人(びじん)で明るくて誰(だれ)からも好(す)かれて…。非(ひ)の打(う)ち所なんてみじんも無(な)い。あたしなんか……。
菜津子は、どういうわけかあたしを親友(しんゆう)に選(えら)んだ。あたしは、別に嫌(いや)だっていう理由(りゆう)もないし、何となくそれを受(う)け入れた。それが、転落(てんらく)への道(みち)だとも気づかずに。
別に、彼女が悪(わる)いわけじゃない。彼女と付き合ってみれば分かるけど、本当(ほんとう)に純真無垢(じゅんしんむく)で天使(てんし)のような心(こころ)を持っていた。悪いのはまわりの男子(だんし)だ。あたしが彼女と仲良(なかよ)しだからって、彼女はどんな男が好きかとか、彼女と付き合うにはどうすればいいんだ。彼女は今朝(けさ)何を食べた…。もう、いつも話題(わだい)は彼女のことばかり。こんなことが、高校まで続いたの。で、あたしは決めたんだ。大学は絶対(ぜったい)違(ちが)う所へ行こうって。菜津子は東京へ行ったけど、あたしは地元(じもと)の大学に入学した。あたしの大学生活は、そりゃ充実(じゅうじつ)してたわ。
それなのに、何で、職場(しょくば)で彼女と再会(さいかい)? 何で同じ会社(かいしゃ)? しかも、何で本社(ほんしゃ)から転勤(てんきん)してくるのよ。絶対…、絶対にあたしの彼には紹介(しょうかい)しないから。
<つぶやき>誰かと比(くら)べるのは止(や)めよう。あなたはあなたなんだから。胸(むね)をはりましょう。
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