深夜(しんや)の公園(こうえん)。ベンチで酔(よ)いつぶれている男がいた。そこへ女がやって来る。男を見つけると、「あっ、やっと見つけた。もう、捜(さが)したんだからね」
男は眠(ねむ)っているのか、うなだれたまま動かない。女は男の横に座(すわ)り、独り言(ひとりごと)のように、
「何で私じゃダメなの? こんなに、あなたのこと、好きなのに…。あの娘(こ)はいないの。もう帰ってこないのよ。あなただって、分かってるはずよ」
男は顔を上げ、虚(うつ)ろな目で女を見つめる。そして、「あすか…」と呟(つぶや)いて、女を抱(だ)き寄せた。女はされるがままに男を抱きしめる。
「いいよ。私が、あの娘(こ)の代(か)わりになってあげる。だから、だから…」
男はやっと正気(しょうき)を取り戻(もど)したのか、抱きしめていた女から離(はな)れると、
「ダメだ。今、君(きみ)を抱いたら、俺(おれ)は、君を傷(きず)つけてしまう。それだけはしたくないんだ」
男は両手で顔を覆(おお)った。女は男の背中(せなか)にもたれかかるようにして、
「私は、それでもいいよ。あなたのそばにいたいの。――もう、あなたの苦(くる)しむ姿(すがた)は見たくない。私が、あんな女のことなんか忘(わす)れさせてあげる。だから…」
男は突然(とつぜん)立ち上がり、フラフラとした足取(あしど)りで歩きだした。女は男の背中に向かって、
「何でよ! 私のことは好きにならなくてもいいから。そばにいさせてよ」
<つぶやき>男と女の間には、越(こ)えられない何かがある。でも、思いは必(かなら)ず伝わります。
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