幸奈(ゆきな)はウエイトレスに紅茶(こうちゃ)を頼(たの)むと、貴子(たかこ)の方に微笑(ほほえ)みかけて言った。
「そうね。先輩(せんぱい)の部屋に来る女はいるわ。でも、そんなの、すぐいなくなるから」
「えっ? 何で、そんなこと…」
「偶然(ぐうぜん)なんだけど、あたしの部屋の隣(となり)が、先輩の部屋なんだ。もう、ビックリしちゃった。今朝(けさ)も、先輩のとこ覗(のぞ)いてみたら、まだぐっすり眠(ねむ)ってたわ」
顔をこわばらせている貴子を見つめて、幸奈はかすかに笑(え)みを浮(う)かべた。
「あら、どうしたの? 心配(しんぱい)しないで。先輩は来ないわよ」
「あなた、何をしたの? 彼に…」
貴子は店を出ようと立ち上がった。しかし、幸奈は貴子の手をつかんで引き戻(もど)す。
「まだ話は終(おわ)わってないわよ。もう、せっかちさんなんだから」
幸奈の言葉(ことば)は温和(おんわ)に聞こえるが、顔は無表情(むひょうじょう)で鋭(するど)い目つきで貴子を見つめていた。貴子は身体(からだ)が震(ふる)えた。まるで、ヘビに睨(にら)まれたカエルのように。
ウエイトレスが紅茶を運んでくると、幸奈は何事(なにごと)もなかったように紅茶をすすった。
「それで、相談(そうだん)なんだけど。先輩と別れてくれない? お願い」
貴子は震える声で答えた。「イヤよ。彼だって、あなたのこと好きになるはずない」
「あたしの部屋に前(まえ)住んでた人、どうしていなくなったか知ってる?」
<つぶやき>恐(こわ)いですね。前に住んでた人どうなったの? 考えただけで背筋(せすじ)が凍(こお)ります。
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