月島(つきしま)しずくが子供(こども)の頃(ころ)に楓(かえで)から聞いた話をかいつまむとこうであった。
昔(むかし)、政府(せいふ)は特殊(とくしゅ)な能力(ちから)を持った者(もの)達を密(ひそ)かに集めて、国のために働(はたら)かせようとしていた。だが言葉巧(たく)みにとある施設(しせつ)へ連れて行かれた彼らを待っていたのは、協力(きょうりょく)とは名ばかりの人体実験(じんたいじっけん)。彼らの能力を遺伝子(いでんし)レベルから調(しら)べようというのだ。彼らの名前(なまえ)は消(け)され、人間(にんげん)としての尊厳(そんげん)も否定(ひてい)された。まるで実験動物(どうぶつ)のように扱(あつか)われたのだ。
その施設から逃(に)げ出そうとした者も何人かいたが、連れ戻(もど)されたり、殺(ころ)された者さえいたようだ。だが、彼らの思念(しねん)を止めることはできなかった。彼らの叫(さけ)びは他(ほか)の能力者に届(とど)いていた。メッセージを受け取った者達は、自分たちの能力を隠(かく)して暮(く)らすようになった。
――それから何十年もたっている。その施設は閉鎖(へいさ)されたようだが、まだ能力者の捜索(そうさく)は今も続いている。つくねの家族(かぞく)も狙(ねら)われて、両親(りょうしん)を失(うしな)うことになったのだ。その魔(ま)の手が、しずくにかかろうとしている。楓は、ある決意(けつい)を持ってしずくに語(かた)りかけた。
「これからは、自分の身(み)は自分で守(まも)りなさい。母さんには、もうあなたを守ってあげられるだけの能力(ちから)はないの。だから、あなたの足手(あしで)まといにならないように、これからは別々に暮らすのよ。お父さんと貴志(たかし)はもう行ったわ」
しずくは戸惑(とまど)い懇願(こんがん)するように言った。「そんなのイヤよ。私、どうすれば…」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。後はあずみ先生に頼(たの)んでおいたわ。――まさか、こんな日が来るなんて…」
<つぶやき>しずくの家族はどうなっちゃうの? これからのしずくの運命(うんめい)はいかに…。
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