みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1234「はけ口」

2022-04-19 17:43:14 | ブログ短編

 小さな公園(こうえん)のベンチで寝込(ねこ)んでしまっている彼女。どうやら酔(よ)っ払(ぱら)っているようだ。そこへ、一人の男が通(とお)りかかった。その男、悪(わる)い人ではなさそうだ。彼女に声をかけて揺(ゆ)り起こすと、「早く帰(かえ)った方がいいですよ」と忠告(ちゅうこく)した。
 彼女は起き上がると、支離滅裂(しりめつれつ)なことを言い出して男を罵倒(ばとう)した。でも、男は不機嫌(ふきげん)になることもなく、微笑(ほほえ)みさえ見せて彼女に言った。
「僕(ぼく)でよかったら、話し聞きますよ。ぜんぶ吐(は)き出してしまいましょう。溜(た)まっているものを吐き出せば、きっと楽(らく)になりますよ」
 彼女は、会社(かいしゃ)の上司(じょうし)からの理不尽(りふじん)な言動(げんどう)や、自分(じぶん)のことを理解(りかい)してくれない彼氏(かれし)への不満(ふまん)をぶちまけた。それはまるで激流(げきりゅう)のように、彼女の口から吹(ふ)き出してきた。男は嫌(いや)な顔ひとつ見せずに、彼女の言葉(ことば)を受け止めていく。まるで彼女の不満やストレス、イライラを吸(す)い取っているようだ。
 彼女は全部(ぜんぶ)ぶちまけると、酔いも覚(さ)めたようでスッキリした顔になった。彼女は頭を下げて男にお礼(れい)を言うと、自宅(じたく)へ帰って行った。男は彼女を見送(みおく)ると、膨(ふく)らんだお腹(なか)をさすってげっぷをひとつした。そして、誰(だれ)に言うでもなく呟(つぶや)いた。
「久(ひさ)しぶりに満腹(まんぷく)になったよ。これでしばらくは寝て暮(く)らせるなぁ」
 男の姿(すがた)は少しずつ霞(かす)んでいって、暗闇(くらやみ)の中に消(き)えてしまった。
<つぶやき>こんな人がいてくれたら…。誰もがそう思うわよね。でも人じゃないから。
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