彼女は家の近くの小さな公園(こうえん)を通って家に帰っていた。こっちの方が近道(ちかみち)なのだ。
ある日のこと、彼女は公園のベンチに空(うつ)ろな目をしたおじさんが座(す)っているのを見かけた。確(たし)か、昨日(きのう)もここに座っていたはず。洒落(しゃれ)た身(み)なりのおじさんなので、彼女の記憶(きおく)に残(のこ)っていた。
「どうしたのかな?」彼女はちょっと気になった。でも、話しかける勇気(ゆうき)はなかった。
次の日も、そのおじさんは同じベンチに座っていた。今日は従兄(いとこ)が一緒(いっしょ)だったので声をかけてもらった。すると、そのおじさんは二人の方を見て言った。
「君(きみ)たちは…わしのことが見えるのかい?」
おかしなことを言うなと、二人は顔(かお)を見合(みあ)わせた。彼女はますます気になって、
「あの…、おじさんってずっとここにいるよね。どうかしたんですか?」
おじさんは微(かす)かに口元(くちもと)を緩(ゆる)めると、「ああ…ちょっと休(やす)んでるとこだ。これから、遠(とお)くへ行かないといけないからなぁ」おじさんは上を指差(ゆびさ)してにっこり微笑(ほほえ)んだ。
二人はつられて上を見上(みあ)げる。すると、何かきらきらしたものが舞(ま)い上がっていくのが見えた。二人が目を戻(もど)すと、ベンチには誰(だれ)もいなかった。彼女は思わず従兄の腕(うで)にしがみついた。従兄は、彼女の手に優(やさ)しく触(ふ)れると言った。
「行ってしまったね。さあ、二人で手を合わせてあげようよ」
<つぶやき>この公園は霊(れい)の休憩場所(きゅうけいばしょ)なのかもしれません。静(しず)かに見守(みまも)ってあげようね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます