みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0423「すみれの恋1」

2019-01-02 18:37:19 | ブログ短編

 僕(ぼく)がすみれと再会(さいかい)したのは、本当(ほんとう)に偶然(ぐうぜん)だった。配達(はいたつ)が早く終わって時間が空(あ)いたので、近くの海岸(かいがん)まで足をのばした。そこは学生(がくせい)の頃(ころ)、学校帰りによく友達と行っていた場所(ばしょ)。すみれと初めて会ったのも、そこだった。
 その頃のすみれは、ちょっと変わっていた。いつも一人で、海岸の岩(いわ)の上に座って海をずっと見つめていた。どんなきっかけで話すようになったのか思い出せないが、彼女の凜(りん)とした横顔(よこがお)ははっきり覚(おぼ)えている。
 僕にとっては初恋(はつこい)だった。でも、彼女が突然(とつぜん)引っ越すことになり、一年足(た)らずで終わってしまった。その彼女が、すみれが、昔(むかし)と同じ場所に座っている。僕は思わず彼女の名前を叫(さけ)んでしまった。駆(か)け寄(よ)ってくる僕のことが分かったのか、彼女は昔と変わらない笑顔を見せてくれた。息(いき)をはずませている僕を見て、彼女は言った。
「酒屋(さかや)のケンちゃんだよね。ちっとも変わってない。ほんと、なつかしい」
「おおっ…」僕は大人(おとな)になったすみれを見て、何だかまぶしくて言葉(ことば)にならなかった。
 それから僕たちは、途切(とぎ)れた時間を取り戻すように何度も何度も二人で会った。昔の話や、別れてからの出来事(できごと)を競(きそ)うようにいっぱい話して、いっぱい笑(わら)った。――でも、僕は知らなかった。彼女の、本当の気持ちを。それを知っていれば、それを気づいてあげられれば、もっと違(ちが)う時間を過(す)ごすことができたのかもしれない。
<つぶやき>淡(あわ)い初恋。青春(せいしゅん)の切(せつ)なくて甘酸(あまず)っぱい…。彼女はなぜ戻(もど)って来たのでしょう。
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