徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:中山七里著、『月光のスティグマ』(新潮文庫)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
幼馴染の美人双子、優衣(ゆい)と麻衣(まい)。僕達は三人で一つだった。あの夜、どちらかが兄を殺すまでは――。十五年後、特捜検事となった淳平は優衣と再会を果たすが、蠱惑(こわく)的な政治家秘書へと羽化した彼女は幾多の疑惑に塗(まみ)れていた。騙し、傷つけ合いながらも愛欲に溺れる二人が熱砂の国に囚われるとき、あまりにも悲しい真実が明らかになる。運命の雪崩に窒息する! 激愛サバイバル・サスペンス。

1995年の阪神・淡路大震災以前の淳平と隣の双子姉妹・優衣と麻衣の三人の思い出語りから物語は始まります。双子に振り回されつつまんざらでもなかった淳平は、将来2人のうちのどちらかと結婚することを約束させられますが、思春期の頃になると、積極的な麻衣よりも少し控えめな優衣に惹かれ、お互いの思いを確認し合う。一方、淳平の兄はかねてから麻衣を狙っており、阪神・淡路大震災前夜、彼女を工場跡に呼び出していた。淳平は兄が刺されるところを目撃してしまうが、驚いて家に逃げ帰ってしまう。翌日確認に行くつもりだったが、震災でそれどころではなくなる。彼は無事に家の外に出られたが、無事だったのは彼一人だった。隣で助けを求める声が聞こえたので、双子姉妹を救いに行くが、救出できたのは優衣だけで、その後、家屋は倒壊してしまった。仕方なく淳平は優衣を背負って避難所まで連れて行く。やがて親戚が迎えに来て、二人はそのまま離れ離れに。

15年後、淳平は特捜検事として国民党牧村派の政治家・是枝孝政が名を連ねるNPO法人・震災孤児育英会に内偵に入る。そこに是枝の秘書として現れたのが優衣だった。
二人は完全に敵・味方に分かれ争うことになるのか、歩み寄れるのか?
過去の誓いと兄殺しの疑い、そして是枝のカネの流れを追う任務の間で葛藤する淳平は、能面検事のようにはいかず、内偵にかなり苦戦します。

その後のストーリー展開は、『総理にされた男』とシンクロし、同作品のB面のような様相を呈しています。併せて読むとなお、面白いかもしれません。

 


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書評:中山七里著、『総理にされた男』(NHK出版)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
人気作家・中山七里が描く
ポリティカル・エンターテインメント小説!

売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、 総理の“替え玉”の密命を受ける 。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、 役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する 。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、 国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始める。そして襲いかる最悪の未曽有の事態に、慎策の声は皆の心に響くのか――。
予測不能な圧巻の展開と、読後の爽快感がたまらない、魅力満載の一冊。 

総理が病気で倒れ、そのまま政府が倒れてるのを回避するため、よく似た売れない役者を替え玉にする、という荒唐無稽な設定に目をつぶれば、これほど面白いポリティカルエンターテイメントはなかろうと思えるほど傑作でした。
「立場が人をつくる」とはよく言ったもので、まったくのノンポリだった加納慎策は、総理として扱われ、総理として演技しているうちに政治に目覚めていきます。
そして、訪れる前代未聞の危機。アルジェリアでテロが起こり、日本大使館が占拠されます。大使を含む職員らと大使館に保護を求めた日本人やアルジェリア人が人質に取られ、3時間おきに一人処刑されていく。加納慎策演ずる真垣統一郎総理が下す決断とは? 自国民の危機に、他国に頼るばかりで自ら救済に赴くことできずして独立国と言えるのか? 自衛隊の位置づけと国家のあり方に一石を投じる作品。
護憲一辺倒の平和主義者たちにとっては「すわ、右翼向け小説か?!」と非難すべきものかもしれませんが、現実問題として似たような状況に陥った本物の日本国政府が人質を見殺しにしたことを鑑みると、あながち作中の加納慎策が下した結論は、独立国家として当然の人道主義的決断だったと言えるのではないでしょうか。


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書評:中山七里著、『能面検事の奮迅』(光文社)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
学校法人荻山学園に対する大阪・岸和田の国有地払い下げに関し、近畿財務局職員の収賄疑惑が持ち上がり、大阪地検特捜部が捜査を開始。ところがその特捜部内の担当検事による決裁文書改竄疑惑が浮上。最高検から調査チームが派遣され、大阪地検一級検事の不破俊太郎は惣領美晴事務官と調査に乗り出し、信じがたいものを発見する……。「能面検事」再び! 現実の事件を彷彿させる物語に、能面検事・不破の鋭いメスが冴えわたる! 

「能面検事」シリーズ第2弾。文庫化はされていないものの、続編となれば気になるので、単行本のまま購入しました。
本作の事件のあらましは、財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地を大幅値引きして森友へ売るまでの一連の土地取引と、この取引をめぐる決裁文書を財務省が改ざんしたいわゆる「森友学園問題」に着想を得ています。
しかし、現実をそのままなぞるような野暮なことをせず、売却予定地の選定過程に隠し玉があり、過去の美談っぽい話が暴かれることになります。
不破俊太郎検事は相変わらず周囲の期待や圧力をどこ吹く風と受け流し、まったくのマイペースで真実を掘り起こそうとします。
その彼に影のように(?)付き従う総領美晴も相変わらず感情が顔に出てしまう悪癖が治らず、自分の感情論や単純な正義感を不破検事に木端微塵に粉砕されてもめげずに、いつか検事になることを夢見てコツコツと事務官の仕事を続けます。
不破検事の容赦ない罵倒がくせになっているのでは?と疑問に思わなくもないです。しかし、彼は卑劣さ卑屈さとは無縁であるため、容赦ない理屈も一本筋が通っていて、よくよく耳をすませば納得が行くものでもあります。
しかし、容赦ない一本筋の通った理屈も、能面顔で語られると、やはり人間味が足りなくて、ちょっと薄気味悪いのではないでしょうか。
語り手の総領美晴は、不破検事とは対照的に感情に振り回され過ぎて、およそ検事を目指す者として相応しからぬキャラクターが魅力と言えば魅力なのでしょう。私はちょっと引いてしまいますが。。。



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書評:中山七里著、『嗤う淑女』『ふたたび嗤う淑女』(実業之日本社文庫)&『嗤う淑女  二人』(実業之日本社)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

この『嗤う淑女』シリーズは、不幸な生い立ちの美女・蒲生美智留が次々と人を不幸に陥れていく話で、〈傾国の美女〉もかくや、という感じです。
自分を性的虐待し続けた父親を殺したことを除けば、自ら手を汚すことなく、巧みに犯罪を教唆するため、捜査の手も及ばず、たとえ捕まってもどんでん返しで無罪釈放。
事件解明はされても、古典的な意味での解決、すなわち逮捕・起訴・有罪判決とはならず、「最後に笑うのは私」とばかりに美智留はまんまと逃げおおせるところが興味深いミステリーです。
シリーズ3作目で笑う淑女が二人に増えますが、二人目の悪女・有働さゆり は、『連続殺人鬼カエル男』で登場するキャラクター。彼女のしたたかさは、蒲生美智留の悪知恵も結局及ばず、「共犯者は始末するもの」という美智留のポリシーをまんまと免れて逃走。こうして悪女が二人とも捕まらずに逃走中なのです。
悪の華を礼賛する、というほどではないにしても、読者の倫理観や正義感を逆撫でする作品であることには変わりありません。にもかかわらず、最後まで読ませてしまうのは、さすがどんでん返しの帝王・中山七里の筆致のなせるわざというものでしょう。

『笑う淑女』
商品説明
徹夜確実! 女神なのか、悪魔なのか――最恐悪女度no.1小説。中学時代、いじめと病に絶望した野々宮恭子は従姉妹の蒲生美智留に命を救われた。美貌と明晰な頭脳を持つ彼女へ強烈な憧れを抱いてしまう恭子だが、それが地獄の始まりだった――。名誉、金、性的衝動…絶世の美女に成長した美智留は老若男女の欲望を残酷に操り、運命を次々に狂わせる。連続する悲劇の先に待つものは? 史上最恐の悪女ミステリー。漫画家・松田洋子氏による文庫版限定「あとがき漫画」収録!


『ふたたび嗤う淑女』
商品説明
この悪女、制御不能!
シリーズ累計12万部突破の大ヒット作、待望の文庫化!

巧みな話術で唆し、餌食となった者の人生を狂わせる――
稀代の悪女・蒲生美智留が世間を震撼させた凶悪事件から三年。
「野々宮恭子」と名乗る美貌の投資アドバイザーが現れた。
国会議員・柳井耕一郎の資金団体で事務局長を務める藤沢優美は、
恭子の指南を受け、不正運用に手を染めるが……
金と欲望にまみれた人々を弄ぶ恭子の目的とは! ?
どんでん返しの帝王が放つ、戦慄のミステリー!

人気漫画家・松田洋子氏による、文庫版限定「あとがき漫画」も、
シリーズ第1作『嗤う淑女』につづけて、ふたたび収録!

『嗤う淑女  二人』
商品説明
最恐悪女が最凶タッグ!これはテロか、怨恨か<? br> 真相は悪女のみぞ知る――。
戦慄のダークヒロイン・ミステリー、衝撃の最新刊!

高級ホテル宴会場で17名が毒殺される事件が発生。
犠牲者の一人、国会議員・日坂浩一は〈1〉と記された紙片を握りしめていた。
防犯カメラの映像解析で、衝撃の事実が判明する。
世間を震撼させた連続猟奇殺人に関与、
医療刑務所を脱走し指名手配中の「有働さゆり」が映っていたのだ。
さらに、大型バス爆破、中学校舎放火殺人……と、新たな事件が続発!
犯行現場には必ず、謎の番号札と、有働さゆりの痕跡が残されている。
さゆりは「ある女」に指示された手段で凶行に及んでいたが、
捜査本部はそのことを知る由もなく、死者は増え続ける一方で、
犠牲者は49人を数えるのだった……。
デビュー11年目、どんでん返しの筆がますます冴える人気作家が放つダークヒロイン・ミステリー第3弾、ついに刊行!


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書評:中山七里著、『闘う君の唄を』(朝日文庫)

2023年05月08日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
埼玉県の片田舎・神室町に幼稚園教諭として赴任した喜多嶋凛。
あらゆることに口出しをしてくるモンスターペアレンツと対立しながらも、
自らの理想を貫き、少しずつ周囲からも認められていくのだが……。
どんでん返しの帝王が贈る驚愕のミステリ。



〈驚愕のミステリー〉と何度も煽られるといささか興醒めなのですが、『闘う君の唄を』も安定の面白さです。
先に第2弾の『騒がしい楽園』を読んでしまったので、幼稚園教諭が主人公となっていることに違和感はありませんが、本作品の前半は、お仕事小説?と思えるくらい喜多嶋凛の神室幼稚園での奮闘ぶりが描写されています。
神室幼稚園では、異常に保護者会の力が強く、園側は唯々諾々とその要求を受け入れるばかり。そうなるきっかけとなったのが、15年前に起きた園児連続殺人事件。犯人が幼稚園の送迎バスの運転手であったため、衝撃が余計に大きく、退園する児童も多く、新規入園希望者も激減して、廃園の危機に晒された。その対策の1つとして、園の方針に保護者会の承認を受けるような体制が敷かれたのだった。

この過去の事件が後半の物語を一転させる。『テミスの剣』などのキャラクター埼玉県警捜査一課の渡瀬刑事がこの事件の再捜査に乗り出してくるのだ。その後のストーリー展開は、過去の冤罪、意外な真犯人(とはいえ、予想可能)、そして主人公・喜多嶋凛の過去の克服が描かれるいかにも「中山七里ミステリー」。
子ども自身のことよりも自分のエゴや見栄を優先するモンスターペアレントの問題、冤罪、加害者家族に対する誹謗中傷や匿名の正義の皮をかぶった陰惨な悪意の問題をうまく絡めてあり、さらに幼児の視点が加わっていることで新鮮な味わいがあります。


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読書メモ:村端五郎・村端良子著、『第2言語ユーザのことばと心 マルチコンピテンスからの提言』(開拓社 言語・文化選書57)

2023年05月07日 | 書評ー言語

『第2言語ユーザのことばと心 マルチコンピテンスからの提言』を読み出したのは3月半ば。内容が小難しいために、なかなか読み通すことが叶わず、5月になってようやく完読できました。

目次
はしがき
第1章 マルチコンピテンス(複合的言語能力)とは?
第2章 第2言語ユーザの「ことば」
第3章 第2言語ユーザの「心」
第4章 マルチコンピテンスの研究課題と研究方法
第5章 マルチコンピテンスの英語教育への示唆
あとがき
参考文献
索引

マルチコンピテンスの考え方とは、従来の「母語」と「外国語」を独立した別存在として捉える考え方に異議を唱えるものです。現代において、純粋なモノリンガル(単言語使用者)はほとんど存在しておらず、程度の差こそあれ、母語以外の外国語に接し、その影響を受けているため、外国語学習において目指すべき理想の〈母語話者〉も空虚であることを指摘します。
この考え方から、外国語を学ぶ者を外国語〈学習者〉とは呼ばず、〈第2言語ユーザ〉と呼びます。
個人的には〈ユーザ〉と二つ目の長音記号を省く書き方に抵抗がありますが、それはともかく、たとえ初級レベルであっても外国語を学ぶことで、脳内の言語能力の様相が変化しており、外国語の影響がその本人の母語運用に影響を与えたり、母語の特徴が外国語の運用に影響を与えたり、と双方向の影響関係が認められ、その混然一体となった言語能力はその人独自の言語であることに誇りを持って、〈ユーザ(使い手)〉と自認すべきだ、というのが本書の核心となる主張です。

自分はある外国語の〈学習者〉と自覚していると、いつまでも母語話者レベルに到達しない、不完全な使い手のイメージがつきまとい、そのせいで余計に運用に自信を持てないままなのは残念なことである、という主張は共感できます。

英語教育への提言としては、〈母語話者〉信仰の見直し、英語のみで行う授業の見直し、訳読活動の再採用などが挙げられています。

確かに、英語のみで英語の授業を行った場合、生徒の英語理解が進むのかについては疑問の余地があるため、日本語で行う英語の授業を蔑ろにするのは極端な方針と言えるでしょう。
英語運用の練習には、英語のみの授業、英語の文法構造の説明には日本語での授業というように目的に応じて使い分けるのが合目的的であるように思えます。


書評:中山七里著、刑事犬養隼人シリーズ1~5(角川文庫)

2023年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

刑事犬養隼人シリーズは、警視庁捜査一課の犬養隼人警部を主人公とした警察小説ですが、臓器移植や子宮頸がんワクチン、安楽死、臓器売買と貧困問題など、社会的・倫理的に非常に難しい問題を扱っており、様々な立場の人間の様々な言い分を浮き彫りにさせた上で、あえて結論を出さないままストーリーを締めくくるところが魅力です。

犬養隼人はバツ2の1人暮らしですが、腎不全を患う娘がいるため、警察官として違法行為を取り締まるのは自明の理と考える一方で、常に、娘の場合だったら、自分は父親として遵法精神から娘の命を諦められるのか、娘の命を救うために脱法・違法行為もやむを得ないと考えるのか、そのたびに悩み惑います。

非常にセンシティブな倫理問題を背景に、法の不備や文化による死生観の違いを浮き彫りにしていく中、犬養親子の関係の変化も物語の味わいを深めています。最初、娘の沙耶香は、浮気して自分達母子を捨てた父親に対して憎しみの感情しか持っておらず、定期的に見舞に来る犬養に対して無視を決め込んでいましたが、氷河期はやがて終わりを告げ、ぎこちないながらも親子の関係を新たに築いていきます。
法の不備、子どもの苦しみ、親の願い。事件の解決と犯人の訴追が、誰かの苦しみとなり、その人の命を奪うことに繋がる矛盾。その狭間で葛藤・苦悩しつつ職務を全うする犬養。
一筋縄ではいかない社会問題と絡めた社会派ミステリーの本シリーズは、安易な一件落着のカタルシスを読者に許さない重みのあるストーリーでありながら、なおもエンタメ性を失わない二転三転するストーリー展開が魅力です。

ちなみに犬養隼人の相棒として登場する高千穂明日香は、『作家刑事毒島』シリーズでも登場するキャラクターです。
こうした作品間を跨ぐキャラクター達も、中山七里作品の面白さですね。

『切り裂きジャックの告白』
商品説明
東京都内の公園で臓器をすべてくり抜かれた若い女性の死体が発見された。やがてテレビ局に“ジャック”と名乗る犯人から声明文が送りつけられる。その直後、今度は川越で会社帰りのOLが同じ手口で殺害された。被害者2人に接点は見当たらない。怨恨か、無差別殺人か。捜査一課のエース犬養刑事が捜査を進めると、被害者の共通点としてある人物の名前が浮上した――。ジャックと警察の息もつかせぬ熾烈な攻防がはじまる!


『七色の毒』
商品説明
中央自動車道を岐阜から新宿に向かっていた高速バスが防護柵に激突。1名が死亡、重軽傷者8名の大惨事となった。運転していた小平がハンドル操作を誤ったとして逮捕されるも、警視庁捜査一課の犬養は事故に不審を抱く。死亡した多々良は、毎週末に新宿便を利用する際、いつも同じ席に座っていた。やがて小平と多々良の過去の関係が明らかになり……。(「赤い水」)
人間の悪意をえぐり出した、どんでん返し満載のミステリ7編!


『ハーメルンの誘拐魔』
商品説明
少女を狙った前代未聞の連続誘拐事件。身代金は合計70億円。捜査を進めるうちに、子宮頸がんワクチンにまつわる医療界の闇が次第に明らかになっていき――。孤高の刑事が完全犯罪に挑む!


『ドクター・デスの遺産』
商品説明
死ぬ権利を与えてくれ――。安らかな死をもたらす白衣の訪問者は、聖人か、悪魔か。警視庁VS闇の医師、極限の頭脳戦が幕を開ける。安楽死の闇と向き合った警察医療ミステリ!


『カインの傲慢』
商品説明
臓器を抜き取られ傷口を雑に縫合された死体が、都内で相次いで発見された。司法解剖と捜査の結果、被害者はみな貧しい環境で育った少年で、最初に見つかった一人は中国からやってきたばかりだと判明する。彼らの身にいったい何が起こったのか。臓器売買、貧困家庭、非行少年・・・・・・。いくつもの社会問題が複雑に絡み合う事件に、孤高の敏腕刑事・犬養隼人と相棒の高千穂明日香が挑む。社会派×どんでん返しの人気警察医療ミステリシリーズ第5弾!



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書評:中山七里著、『騒がしい楽園』(朝日文庫)

2023年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。騒音や待機児童など様々な問題への対応を迫られる中、園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起き、やがて事態は最悪の方向へ──。『闘う君の唄を』に連なる、シリーズ第2弾。《解説・藤田香織》

これが第2弾だとは知らずに読んでしまいましたが、特に違和感はありませんでした。
主人公の幼稚園教諭・神尾舞子は理性的・論理的で、自らの就学前教育の技術に自信を持っている〈デジタルウーマン〉で、あまり「保母さん」のイメージに当てはまらないキャラクターです。
都内の幼稚園に赴任早々、幼稚園の騒音が許せない町内会会長の苦情の相手をさせられ、幼稚園の見学日では待機児童を抱える母親から入園の便宜を図るよう賄賂を持ちかけられる。園児たちのお迎えの時間になると、母親たちの派閥争い。前途多難な状況が最初からぶっちぎりで描写されていますが、全金埼でも同僚だった池波智樹がまた同じ勤務先になったという安心要素も瞬く間に吹っ飛ぶ事件が起こります。園児たちが世話をしている池の魚が殺される、蛇の潰された死骸が投げ込まれる、猫の死体が吊るされる。どうにも物騒なので、幼稚園の教員たちが夜の見回りをすることになります。法的にはそのような義務は一切ないし、時間外労働の超過勤務でしかないのですが、子どもたちの安全のためという大義名分が全ての理屈を押し流してしまいます。そして、舞子が同僚・池波と二人で見回りに出た夜、決められた時間より30分早く切り上げて喫茶店でゆっくりとしていた、その翌朝。園児の死体が門の前に放置されていた。
戦々恐々となった親たちに舞子も池波もまるで殺人容疑者であるかのように非難されます。時間通り見回りをしていたら事件が防げたのかどうか、とか、そもそも園児が帰宅した後の安全が幼稚園の責任なのかという理屈は通用しない理不尽な空気。
待機児童問題と、騒音のために幼稚園立ち退きを求める町内会の要求との絡みから起きた事件なのかと思いきや、園児殺害の真相は実に俗なところにあった。人間の狭量さをまざまざと見せつける作品。


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書評:中山七里著、『能面検事』(光文社文庫)

2023年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
大阪地検一級検事の不破俊太郎はどんな圧力にも屈せず、微塵も表情を変えないことから、陰で〈能面〉と呼ばれている。新米事務官の総領美晴と西成ストーカー殺人事件の調べを進めるなかで、容疑者のアリバイを証明し、捜査資料が一部なくなっていることに気付いた。これが大阪府警を揺るがす一大スキャンダルに発展して――。一気読み必至の検察ミステリー!

この作品で、著者は検察に切り込みます。能面検事と呼ばれる不破俊太郎。能面のように表情を変えない、誰にも破られないから〈不破〉という名前なのかと思えるような命名ですね。
この不破氏は、誰に対しても、いついかなる時でも、無表情で、余計なことは一切口にしないという態度を貫きます。この徹底した態度に新米事務官の総領美晴は戸惑い、反発しますが、それでもその徹底ぶりに畏敬の念を抱き、できる限り学ぼうとします。
不破の方も学ぶ姿勢を見せる美晴には彼なりの親切心を出して、割と丁寧に質問に答えるようになります。少なくとも、彼が回答が必要と見なした場合は。
それ以外の場合には、いかなる質問にもけんもほろろの対応で、「言われたことをやれ」。
こうして、大阪府警の捜査資料紛失問題に踏み込んで行きますが、蜘蛛の巣を張り巡らせるかのように用意周到で、相手に有無をいう人間を与えず、一気呵成に畳みかけます。そして最後に、最初の冤罪的送検となった事件で重要だったはずの証拠品が紛失していた理由を突き止めます。

この作品では、〈どんでん返し〉というほどの意外性は見られず、怪しい者は最初からかなり不審な動きをしています。その背後関係を明らかにし、逃げ口上を許さないところまで犯人を追い詰める過程が読み応えがあります。


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書評:中山七里著、『死にゆく者の祈り』(新潮文庫)

2023年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
死刑執行直前からの大どんでん返し! ?
絞首台へ向かう友の魂を救えるか――。
究極のタイムリミット・サスペンス! !
何故、お前が死刑囚に――。教誨師の高輪顕真が拘置所で出会った男、関根要一。それはかつて、雪山で遭難した彼を命懸けで救ってくれた友だった。本当に彼が殺人を犯したのか。若い男女二人を無残に刺殺したのか……。調べれば調べるほど浮かび上がる、不可解な謎。無実の罪で絞首台に向かう友が、護りたいものとは――。無情にも迫る死刑執行の刻、果たして教誨師の執念は友の魂を救えるのか。人気沸騰中の“どんでん返しの帝王"による、予測不能・急転直下のタイムリミット・サスペンス‼

『死にゆく者の祈り』は、死刑囚のために説教をする教誨師が探偵役を務める一風変わったミステリーですが、上の商品説明にあるように、刻々と迫る死刑執行の刻限に無罪証明が間に合うかどうか、最後の抵抗が功を成すか否かというギリギリの緊迫感を味わえるサスペンスでもあります。
主人公の高輪顕真の出家の動機、死刑囚となっていたかつての友・関根要一の守ろうとしたもの、そして、本当の真犯人の昏い動機。それらが鮮やかに織りなされた綾の如く紡がれ、読む者の心を絡め捕ります。
『ネメシスの使者』とは違った切り口で、死刑制度の可否について考えさせられる作品です。


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