徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:佐藤さとる『コロボックル物語全6巻』(講談社文庫)

2018年08月28日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

有川浩の『だれもが知ってる小さな国』を読んでからオリジナルのコロボックル物語シリーズを読むなんて、激しく順番を間違えている感は否めませんが、私は今まで児童文学とは無縁で、有川浩のファンですから、まあ仕方ないです。

さて、このオリジナルシリーズは1959年発行の『だれも知らない小さな国』に始まり、1985年に書かれた『小さな人のむかしの話』(講談社文庫では『コロボックルむかしむかし』に改題)で終わるシリーズ化の予定なく不定期に書かれてきた小説群です。

講談社文庫の『コロボックル物語』シリーズの面白さは、初版から様々な文庫化に際しての作者あとがきが集められている点と、コロボックルの熱烈なファンである作家による解説が載っている点です。本編と同じくらい興味深いと思いました。

主人公は後に「せいたかさん」の愛称で知られることになる「ぼく」が子どものころ偶然見つけた自分だけの素敵な場所「ぼくの小山」を手に入れ、コロボックルたちの国作りの土台を築く話です。作者の本来書きたかったファンタジーは2巻『豆つぶほどの小さないぬ』の方で、この1巻はコロボックルの世界を成立させるためのプロローグという位置づけのようです。「鬼門山」と呼ばれる小山が高速道路のために潰されることを阻止するために取られた作戦が素晴らしい!www

2巻『豆つぶほどの小さないぬ』では、コロボックルの世界が全開します。電気技師のせいたかさんから電気を教わり、コロボックル仕様のトランジスタを作ったり、コロボックル通信社が発足し、印刷所が作られ、壁新聞が制作される様子が生き生きと描かれます。こうした中で、昔のコロボックルが飼いならしていたという「マメイヌ」を見つけ出して捕まえ、再度飼いならす作戦が練られます。コロボックル通信の創刊号はこのスクープでwww 語り手はコロボックル通信編集長のクリノヒコ=風の子。

3巻『星からおちた小さな人』は、前作2作とは異なり、客観視点で語られる「一応完結編」。コロボックル用の飛行機の飛行テストで仲間を助けるためにモズに体当たりして転落し、人間の少年の手に落ちてしまうミツバチ坊や。彼を救うため、全力で仲間を探すコロボックルたちの冒険譚。人間側で活躍するのは意外にもせいたかさんではなく、その娘の「おチャメちゃん」。最初捕まえたコロボックル(宇宙人?)でお金儲けをしようとしていたおチャ公がだんだん心を変えて、コロボックルを好きになり、もっと知りたい、友達になりたいと願うところがピュアで魅力的な展開。

4巻『ふしぎな目をした男の子』ではつむじ曲がりの老学者「ツムジイ」が登場し、コロボックルのおきてが変わって、だれもが人間の「トモダチ」を一人持つことが許されるようになるなんてけしからん!と国を出て人間の街に出てしまう、かなりユーモラスなまがりっぷりを発揮します。街に出た途端に2歳の男の子に目撃されてしまうという失態も。実はその男の子タケルが「ふしぎな目をした」子、つまり動体視力に優れた子で、敵にすると厄介なのでコロボックルのトモダチにしてしまおうということになり、見つかってしまった本人のツムジイがその子のトモダチになるというお話。トモダチ作るのに反対して国を出たのにねえ...

タケルが成長して、潰されていく田んぼや汚染されていく池を嘆き、コロボックルたちと共に池を救出するエピソードなど、時代を先取りしたエコ感覚がいいですね。

5巻『小さな国のつづきの話』では、かつてハチミツ坊やを捕まえて困らせた末にトモダチになったおチャ公ことイサオとせいたかさんの娘おチャメちゃんことチャムが成長して登場しますが、脇役です。主人公は「変わった子」とずっと言われてきた杉岡正子。チャムの高校時代の親友で、高校卒業後は公立図書館勤務。そして、世界中を旅することを夢見るおてんばコロボックル、ツクシンボ。この二人が出会って紆余曲折の末にトモダチになるお話。チャムの弟ムックリくんが活躍?します。

この『つづきの話』ではコロボックル物語の本が4冊すでに発行済みで、それをすべて読んでコロボックルのことを知っている人とトモダチになるということはどういうことか、みたいな現実がファンタジーに割り込み、作者が作中に登場してしまうという奇妙な違和感を残す感です。語り手は作者自身で、作者視点が前面に出され過ぎている感が否めません。

この巻で本編は終了ということになります。「語るべきことはすべて語った」のだそうで。

6巻または別巻『コロボックルむかしむかし』(旧『小さな人のむかしの話』)では、コロボックルのむかし話やおとぎ話がツムジイが提供した資料を元に、ツムジイ覚書を交えて紹介されます。コロボックル視点の日本昔話という感じで、非常に興味深いです。

この巻でのツムジイはそんなにつむじ曲がりではありませんwww

6冊一気読みしてしまいましたが、個人的には4巻と6巻がお気に入り。特にツムジイが(笑)

長く愛されるだけのことはある文学作品ですね。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ