徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『フリーター、家を買う』(幻冬舎文庫)

2016年07月12日 | 書評ー小説:作者ア行

『フリーター、家を買う』は長編と言うほどでもありませんが、380pを超える力作です。

母の病気(うつ病などの複合的な精神病)をきっかけに心を入れ替えて、肉体労働のバイトをしつつ就活をするヘタレ25歳の武誠治(たけ・せいじ)。嫁ぎ先からわざわざ休暇を取って戻って来た姉の亜矢子が父の母の病気に対する理解の無さにブチ切れ、長年の恨みとばかりにケンカしてしまうのに対して、弟の誠治は今迄母がいかに苦しんでいたか気が付かず、理解のない父と同様に母を追い詰めてしまったことに深い罪悪感を抱き、父と共に母を支えようとします。その際に父と衝突もするが母を安心させるため我慢することを覚えます。母のストレスの原因は近所の人からのいじめでした。もとはといえば酒癖の悪い父が町内の飲み会で飲んだくれたこととその場で社宅の家賃の安さを自慢(?)したことに始まるらしい。母の病気を治するには引っ越すしかない、と言われていたので、「家を買う」が誠治の最終目標となります。そこに向けて就職し、お金を貯めます。実際に家を買ってローンを組むのは誠治に辛抱強く説得された父親ですが、頭金の一部は誠治が出します。

テーマは暗いかもしれませんが、暗いだけではない、希望に満ちた成長物語であり、同じような境遇にある人たちへの応援歌でもあるように感じます。

また、ぎすぎすした親子関係を修復していく過程も勉強になります。私はどちらかと言うとこの作品に登場する姉の亜矢子のようにブチ切れてしまう方なので、誠治の不器用ながらも誠実で思いやりのあるアプローチは見習いたいですね。

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