徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『県庁おもてなし課』(角川文庫)

2016年05月21日 | 書評ー小説:作者ア行

『県庁おもてなし課』(角川文庫)はかなり実話が入った高知県PR小説。きっかけは作者が高知県出身ということで、実在するおもてなし課から観光特使を依頼されたことだとか。依頼を引き受けたものの1か月も音沙汰なしだったので、話が流れたのかと思って問い合わせたら、そうじゃなかったという衝撃などが小説の中に織り込まれています。

裏表紙の粗筋はこんな感じ:

とある県庁に生まれた新部署「おもてなし課」。若手職員の掛水史貴は、地方振興企画の手始めに地元出身の人気作家・吉門に観光特使を依頼する。が、吉門からは矢継ぎ早に駄目出しの嵐――どうすれば「お役所仕事」から抜け出して、地元に観光客を呼べるんだ!? 悩みながらもふるさとに元気を取り戻すべく奮闘する掛水とおもてなし課の、苦しくも輝かしい日々が始まった。地方と恋をカラフルに描く観光エンタテインメント!

実際作中で高知県の観光スポットがかなり紹介されてて、下手な観光案内よりも面白味があるかも。それに、おもてなし課の活動を有意義なものにするために、「民間意識」と「女性視点」を取り入れるべきという吉門のアドバイスは本当に日本のお役所の盲点をどすっと突いていると思います。「女が取れたら、男は勝手についてくるよ。カレシとか旦那とか。ファミリー層なら子供までね。家庭でも財部の紐握ってるの奥さんが多いだろ」というわけですが、「確かに!」と納得してしまいました。その他にもかなり具体的な女性視点を取り入れた観光事業振興構想が提示されていて、それに対して役所内外でどういう横やりが入って、どこに着地するか、が軽快かつコミカルに描かれていて、それだけでも読み物としてわくわくする感じなのに、登場人物たちの恋愛も2組織り込んであって、やっかんだり、僻んだり、管を巻いたり、というリアルな人間ドラマも見せてくれます。

恋愛の方は2組ともハッピーエンド(?)というかハッピーエンドの予感といったところで終わっていて、「おもてなし課」の活動も軌道に乗りだしてこれからという希望に満ちたところで話が収束しています。そこらへんがストーリーテラーとしての引き際、なのかもしれません。

巻末には、「鼎談 物語が地方を元気にする!?~「おもてなし課」と観光を”発見”~有川浩 x 金丸弘美 x 高知県庁おもてなし課」が掲載されています。小説『県庁おもてなし課』の裏話として実に興味深い対談です。

この作品は有川浩としては結構異色な部類ではないかと思うのですが、もっとも全作品網羅しているわけではないので、断言はできませんけど、彼女の郷土愛がベースになっているお話なんだな、ということがよく分かります。地元民が持っているものを当たり前に受け止めすぎて、その価値を分かっていない、というのもよく分かる話です。「灯台下暗し」という言葉は伊達ではないということでしょう。

私の母は石川県金沢市出身で、私が中学2年の時だったと思うのですが、なんか急に金沢をまともに観光しようと思い立ち、祖父をやれ郷土博物館やら武家屋敷やらで一日中引っ張り回したことがあります。「金沢にずっと住んでたけど、こんなに色々あるもんだとは思わなかった」というのが彼の感想でした。その後彼は脳腫瘍を患い、手術後は家族の顔も分からないような感じになっていましたが、私と色々金沢巡りしたことはいい思い出としてよくおぼえていて、「あれは楽しかった」と何度も周りの人に語っていたのだそうです。それでも私が行ったときは、その金沢巡りした当の相手だということが認知できず、私は結構ショックを受けたものです。その後まもなく祖父は他界してしまいました。祖父のことはちょっとほろ苦い記憶ですが、私にとっては「地元を知らない人」の代表例となっています。

そういう意味で、地域興しは、まずは「地元の宝」の再発見だとつくづく思いました。

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