徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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レビュー:一条ゆかり著、『正しい恋愛のススメ』全5巻(クイーンズコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

『正しい恋愛のススメ』の初版発行は1996-1998年で、古い作品ですが、これもとっても面白かったです。

主人公はパワフルで一風変わった思考回路を持つ女子高生・小泉美穂。黙っていればかなりかわいい女の子だけど、恥じらいもなくずけずけと口に出してしまうところが玉に瑕、というキャラ。彼氏の竹田博明はかなりの美少年だけど、「だるい男」。美穂とも彼女の押しに負けて断るのが面倒だから付き合いだしたという、年の割に冷めていて、ちょっと退屈している男の子。そんな彼に、見かけは優等生だけど随分意味深な同級生・護国寺洸から「出張ホスト」のバイトを持ち掛けられます。最初は怪我した彼の代理として。「寂しい女に愛情を売るのが仕事。体はオプション」と言われて、博明は依頼者の好みに合わせて自分を演出することに興味を示し、本格的にそのバイトを始めます。その過程で紹介されたのがバイト先の店長(ホモ)の元妻で、現在は彼の上客となっている玲子さん(39)。彼女は美人で、年齢を感じさせないかっこいい大人の女(職業作家)。博明は彼女に段々惹かれていき、「欲情」を感じていることに気付いて戸惑ったり、初心な感じがかわいい。

ただ、この玲子さんは実は博明の彼女・美穂の母親でした。玲子も娘の彼と分かった後も気に入っている博明との関係を止められず、博明は玲子の指示通りそのまま美穂と付き合い続けるのだけど、美穂は彼が誰かに恋をしていることを敏感に感じ取って…という母娘で争う三角関係の話なんですが、美穂のキャラのせいでかなりコミカルになっています。博明は相当悩み苦しむのですが… 美穂はかなり後まで母親が恋敵とは知らないままでした。なんというか、すごくすっ飛んでて強い女の子。「最後に笑う女」という影の呼び名(by護国寺)に相応しいキャラです。結局、玲子と博明はお別れ旅行で気持ちの区切りをつけて別れます(その旅行中に美穂とその親友にばったり出くわし、全てばれてしまうのですが)。美穂は英作文が認められてイギリス留学の誘いが来たので、母・玲子に慰謝料として留学資金を請求(つえー!)。父とばれてしまった原田とともに渡英します。

なんとなく美穂のパワフルなノリは有閑倶楽部の有理を思い出させますね。有理の方がもっとハチャメチャで、恋愛方向はからっきしでしたが。

どこらへんが【正しい】恋愛なのかよく分かりませんが、楽しい恋愛をしたくなるような作品でした。

ちなみに本編は1-4巻で、5巻は番外編のみが収録されています。


レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)


レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

『砂の城』は随分古い作品です。初版発行はなんと1979年-1982年。私はその頃はまだガキンチョで、少女漫画は『なかよし』に掲載されているようなもの、あとは『ドラえもん』なんかを読んでた時期で、『砂の城』が理解できるような年齢ではありませんでしたが…

私がゲットしたのは電子書籍です。紙書籍の方はもう手に入らないのではないでしょうか?

さて、この『砂の城』ですが、読んで楽しいものではありません。どちらかと言うと泣いちゃう感じです。スタートがまずかなり不幸です。

フランスの富豪ローム家に生まれたナタリーは、屋敷の前に捨てられていたフランシスと兄妹のように育てられ、結婚を誓い合います。ナタリーの両親は二人の関係を温かく見守っていたのですが、唐突に飛行機事故で亡くなってしまいます。叔母がナタリーの後見を引き受けますが、二人の結婚には反対。二人は追い詰められて海に身を投げます。ナタリーは運よく助かりますが、フランシスは発見されず、死んだと思われていました。それから数年後。童話作家としてそれなりに活躍するようになったナタリーはフランシス目撃情報のあったとある島へ行き、彼と再会しますが、再会したその瞬間に彼は交通事故に遭い、かなり危険な状態で病院に運ばれます。しばらくして金髪の美しい奥さんが現れます。彼は記憶喪失になっていて、命の恩人である彼女と結婚し、一児の父となっていました。結局フランシスは記憶を取り戻し、ナタリーを認識し、戻れないことを明らかにして彼女を追い返そうとしますが、傷が酷くてそのまま亡くなります。フランシスの奥さんも後追い自殺。あとに残されたマルコ(4)は金髪であることを除けばフランシスにそっくり。引き取り手のない彼をナタリーは引き取ることにしますが、その際彼の名前はマルコではなく、フランシスだと教え込みます。こうして二人の生活が始まるわけですが、フランシス・ジュニアはママが恋しい年齢ですし、ナタリーは自分の思い人を奪ったその金髪女性が許せないので、ついジュニアにつらく当たってしまったり。だけど昔の恋人(父)にそっくりのジュニアに愛情もあり…とかなり葛藤します。

2・3巻はフランシス・ジュニアの学園生活が主に描かれています。彼の天使のようなキャラに癒されてしまう複雑な事情を持つ上級生たちや一緒にやんちゃをやる同級生たちなどが登場し、割と青春っぽく話が進んでいきます。フランシスは「ナタリーを守るのは自分」と思い、彼なりに一生懸命男を磨いていきます。同級生の妹でかわいいと評判のミルフィーヌはフランシスに夢中になり、彼女の両親は正式にお付き合いを…とナタリーに話を持ち掛けて、彼女はすごく複雑な心境。フランシスとミルフィーヌを見ているのがつらくなってきたその時、アメリカで彼女の童話が海外部門で賞を取り、スポンサーからアメリカに招待されたので、彼女は逃げるように渡米してしまいます。4・5巻はナタリーのアメリカでの生活を中心に物語が進行します。スポンサーのジェフと友人以上にはなれないナタリー。ジェフが奥さんと仲直りしたのを機に、ナタリーはフランスへ帰国して、18になったフランシスと再会。フランシス父とそっくりの彼を見て、また複雑な思いをするナタリー。6巻でついにナタリーは自分のフランシス・ジュニアに対する気持ちを認め、二人は晴れて恋人同士に。だけど、ミルフィーヌがフランシスを諦めきれずにかなり色々やらかしてくれて、フランシス・ジュニアも彼女に恋情は抱けなくても少なくとも妹のように大事に思っているので無碍にもできず、その優柔不断な態度でナタリーを不安にさせ、流産をきっかけについに心を壊してしまいます。フランシスが出かけている間、彼を探して雨の中待っていたナタリーは肺炎になり、意識が戻った時は正気に返っていたけど、それが最後の夜になってしまいます。フランシス・ジュニアを抱きしめながら「愛している」と繰り返して、亡くなります。本人は愛する人に抱かれ、諦めていた恋を成就することができてそれなりに幸せを感じつつ短い人生を閉じてしまうのですが、彼女はもうちょっと幸せになっても良かったのでは?!と思ってしまうのは私だけではないでしょう。ナタリーは不幸な過去のせいでかなり精神的なもろさを持った女性なので、若いフランシス・ジュニアには荷が重かったのかも知れません。本来博愛的にやさしい子だというのが災いしたというか。

『砂の城』は最近の少女漫画にはほとんど見られない悲劇的名作だと思います。あまり何度も読み返したいとは思いませんが… やはり私はハッピーエンドの方が好き。


レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)

 


レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

この頃一条ゆかりの漫画に凝ってます。彼女の作品は大昔に『有閑倶楽部』を読んだくらいだったのですが、そちらも最近全巻電子書籍でゲットしました。ただ長々続くので、レビュー書きづらくてそのまま放置。

この『天使のツラノカワ』は2000年-2002年に初版発行なので、『有閑倶楽部』よりは新しめですが、やっぱり古いですね。だけど笑えました。

主人公の篠原美花は牧師を父に持ち、神戸の教会で純粋培養された敬虔なクリスチャンですが、里帰りから東京へ戻り、幼馴染兼彼氏のアパートにお土産を持って行った時に浮気現場に遭遇し、思いっきり失恋。そのショックでフラフラしていたら転んで足をねんざ。病院に行って治療してもらった後自分のアパートに戻ると、そこは空き巣に荒らされた後だった…という不幸3連発に合って、やさぐれてしまいます。通帳も盗まれ、口座もあらされてしまっていたので所持金数千円でかなり切羽詰っているところに出会ったのが小説家で遊び人の龍生とバイトの達人・紫生。美花の彼の浮気相手だった魔性の女・沙羅は実は龍生の姪で、彼に報われない恋をしている欲求不満から手あたり次第に人の彼氏にちょっかいを出すしょーもない女。紫生と美花はひょんないきさつから知り合い所有の一軒家で同居することになります。この3人との出会いは美花の世界を一変させますが、逆にその3人の方も美花の純粋・天然ボケ・クリスチャンパワーに振り回されつつも、徐々にいい方に変わっていきます。一番可笑しいのはもちろん主人公のボケ具合ですが、遊び人である筈の三十路の男・龍生が美花に惹かれ、彼女と世間公認の仲になっても彼女を落とせない(セックスできない)ことに焦り、彼女が無自覚に惹かれているっぽい紫生にみっともなく嫉妬してしまい、そして本人も自分の変わり果てた姿に動揺するところなどは見ものです。紫生も徐々に美花に惹かれていきますが、漸く夢中になれるもの・演劇を発見し、そちらに情熱を傾けて男として成長していきます。沙羅は叔父・龍生を卒業し、家を出て紫生と美花の住む家に転がり込み、モデルとして自立し始めます。沙羅の方もだんだん素直になっていくのがほほえましいです。龍生も美花と過ごすうちに書く楽しさを思い出し、5年ぶりに小説を書くまでに癒されます。大筋だけ見ると割と真面目というか、結構深刻な過去があったりとか、こじらせた人間関係とかでドロドロしそうなんですが、美花のぼけたクリスチャンパワーでそういうものをみんなふっ飛ばして、全てコミカルになってしまうところが凄いなと思った次第です。