徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:海棠尊著、『モルフェウスの領域』(角川文庫)

2016年07月18日 | 書評ー小説:作者カ行

フェースブックのリマインダー機能で知らされましたが、ちょうど3年前に『モルフェウスの領域』読みました。当時の感想をこちらに転載します。

テーマはコールド・スリープ(人工凍眠)。凍眠期間は最長5年に設定されているとはいえ、人間は記憶の連続に基づいてその人格を形成しているので、5年の空白は決して小さくない。物語の中心に据えられている凍眠八則によれば、凍眠選択者は凍眠中は公民権・市民権を一時保留され、覚醒後は一ヶ月以内に以前の自分と連続した生活か他人としての新たな生活かを選択しなければならない。以前と連続性を持つ属性に復帰した場合は凍眠事実の社会公開、別属性を選択した場合は以前の属性は凍眠開始時に遡って死亡宣告されることになっている。
法的にも倫理的にも哲学的にも実に難しい問題を内包していると感心してしまった。
物語は、両眼失明の危機を前に、特効薬の認可を待つために凍眠を選択した少年と彼の凍眠中のメンテをする女性を主人公に展開していく切ない片思いの話のようでもある。

 

『モルフェウスの領域』は『ナイチンゲールの沈黙』と『医者のたまご』に登場する佐々木アツシの年齢的矛盾を解消するために描かれたストーリーです。これの続編は『アクアマリンの神殿』。それぞれ独立した話なので単独で読んでも差仕えありませんが、全て読んでいればより深く理解することが可能になります。

アツシは9歳で凍眠し、14歳で目覚めます。本人に眠っていたという実感があまりないので、急に5年分タイムスリップした感じで、覚醒後の混乱は免れません。しかも不幸なことに彼の凍眠して1年後に両親が離婚してしまい、どちらも彼の引き取りを拒否してしまったので、その衝撃は余計に大きく、気の毒な限りです。

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