徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『ストーリー・セラー』(幻冬舎文庫)

2016年03月01日 | 書評ー小説:作者ア行

有川浩著『ストーリー・セラー』(幻冬舎文庫)は短編恋愛小説と書下ろし続編の2編が収録されています。

妻の病名は、致死性脳劣化症候群。複雑な思考をすればするほど脳が劣化し、やがて死に至る不治の病。といういささか荒唐無稽な病名から始まるお話「Side A」は、趣味で小説を書いていた彼女に小説家になることを勧め、支える彼のち夫の物語。元々同じ会社の同僚だった彼と彼女。ある日彼女が会社にUSBスティックを忘れていき、不審に思った彼がスティックの中身を確認したら、そこに彼女のネタメモと小説が入っていたので、読書好きの彼はつい読み入ってしまいます。勝手に読んでしまったことで色々諍いがあるのですが、結局付き合いだして、後に結婚。妻は専業小説家に。妻と妻の生み出す文章をこよなく愛する夫。お互いに支え合って、尊敬しあって、愛し合って。素敵な夫婦関係が描かれています。


「Side B」は書下ろしで、「Side A」を書いた小説家の彼女が今度は夫が亡くなる短編小説を書くというもの。最初「Side A」で亡くなったはずの小説家の彼女が再登場するので、うまく頭を切り替えられなくて少々混乱しました。「Side B」は彼女が描く小説の内容と、小説家の彼女と夫の現実の時間軸が交錯するので、読みづらくて残念です。支え合う夫婦関係は「Side A」同様、羨ましいくらいです。出会いの設定は「Side A」とは違い、彼女は会社勤めの傍ら隠れて小説家も兼業していたことになってます。彼は彼女の小説のマニア的ファンで、ある日の昼休み、たまたま会社の屋上で読みかけの小説を読んでいたら、同僚の彼女と出くわし、その小説を見た彼女が実は自分がその作者であると告白したことから二人の関係が始まります。

表現方法として面白いと思ったのは、2ページ程のスペースを埋め尽くす同じ言葉。
「あなたがすきあなたがすきあなたがすき・・・・」あるいは「きみがすきだきみがすきだきみがすきだ・・・・」または「覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ・・・・」。
とめどなく溢れて来る切羽詰った気持ちだということがリアルに伝わって、切なさが増します。

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