徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:高橋洋一監修、『国民が知らない霞が関の不都合な真実~全省庁暴露読本』(双葉社)

2016年07月20日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

どこまでも国民を欺き続ける霞が関&永田町連合!!!

今回の消費税率アップに関して、政府は「社会保障と税の一体改革」というお題目を掲げ、「社会保障制度を維持するために必要な財源を確保するため」というもっともらしい理由で国民を納得させようとしています。なぜ、皆さんはそこで疑問に思わないのでしょうか?
「増税分は社会保障に回る」なんて、なぜ信じるのでしょう。しょせん、金に色はついていないのです。消費税増税分が何に使われたかなど国民にはわからないのです。そこに対して疑問を抱かずに、「国はちゃんと消費税増税で増えた税収を社会保障の充実に回してくれるはずだ」と思っているとしたら、そんなおめでたい話はありません。

 と帯に書かれていますが、これが高橋洋一氏が一番言いたいことでもあるのでしょう。

『国民が知らない霞が関の不都合な真実~全省庁暴露読本』(双葉社)は2012年7月25日初版発行ですので、使われているデータは2010年までのものが殆どです。全省庁の組織図、課題、問題点、天下りの実情が簡単に述べられています。目次は以下の通り。

プロローグ

第1章 日本を動かすエリート集団 官僚制度とは何か?

第2章 省庁の中の省庁 財務省

第3章 日本の大多数の産業を監督 経済産業省

第4章 内閣を支える「頭脳集団」 内閣府

第5章 総理大臣をサポート 内閣官房

第6章 「国民生活」全般に関わる巨大省庁 総務省

第7章 霞が関一のマンモス組織 国土交通省

第8章 世界を相手に日本の国益を守る!! 外務省

第9章 内閣の「顧問弁護士」 法務省

第10章 国民の医療と労働環境を守る 厚生労働省

第11章 日本を守る!! 防衛省・自衛隊

第12章 日本の食を管理!! 農林水産省

第13章 教育・学術・科学技術の振興 文部科学省

第14章 地味な組織から一転、存在感を増す 環境省

エピローグ 国民よ、財務省の洗脳から覚醒し道州制を論じよ!

全章を高橋洋一氏が執筆しているわけではないので、各章ごとに残念ながら質のムラがあります。防衛省の章の自衛隊問題や外務省の章の領土問題に関する叙述は右翼のスタンスとしか思えない言い分がさも常識のように開陳されていて首をかしげるばかりでした。

私にとって特に勉強になったのは第1章の官僚制度に関するあれこれと各省庁の組織図です。日本の省庁改編が行われた頃、私は既にドイツに来ていましたので、省庁によっては全くぴんと来ないものありました。

この本では各省庁の様々な問題点が挙げられていますが、その最たるものは財務省の「埋蔵金」隠しと年金資金の年金給付以外の用途への流用や投資による損失などでしょうか。

財務省の「埋蔵金」とは表には出ない隠れ資産で、埋蔵場所は数ある特殊法人や独立行政法人などで、600兆円以上あると言います。日本の借金総額1000兆円は嘘で、通常は政府資産を差し引いた額が国の借金として計上されるものなので、実際の日本の借金は400兆円ということになります。高橋氏によれば、「借金総額1000兆円」の嘘は増税を正当化するための方便で、真の目的は自分たちのポケットマネーとなる税収による予算を増大させること。決して財政再建のためではないとのことです。

日本の財務省のことはよく分かりませんが、増税が税収増につながらず、逆に税収減になるパラドックスは経済を齧ったものなら常識として知っています。理由は実に簡単なメカニズムで、増税が消費を冷え込ませ、それが企業業績悪化を招き、全体的に景気が悪くなるので、消費税収も伸びず、売上税や法人税、所得税が減額することに繋がるからです。財政再建が真の目的なら、増税ではなく、景気対策及び無駄の削減をするのが常套手段です。IMFの財政再建政策だと、様々な国家財産の民営化も常套手段になっていますが、これに関しては経済的意義が第一ではなく、私企業を利する利権がかなり絡んでおり、公益に反することが多々ある、新自由主義の弊害と見做すことができます。

もう一つのトンデモない問題である年金資金流用ですが、これは旧社会保険庁が1961年の国民皆年金制度のスタートから56年間で行ったもので、その総額は実に6兆7878億円に及ぶとか。その中には巨額の赤字を出し続けたグリーンピア建設なども含まれているそうです。

2007年に発覚した「消えた年金記録」、また2012年2月に明るみに出たAIJ投資顧問が9年間で1092億の損失を出した件(本書より)。そして現在また年金資金運用GPIFが5兆円に上る損失を出したことが問題となっています。よくもまあ年金基金をこれだけ杜撰に扱えるものだと逆に感心するくらいです。ドイツでも年金資金の年金給付以外の用途への流用はありますが、運用損やデータ損失などが起こったことはありません。それが当たり前だと思うのですが、日本の年金管理は本当にあり得ないレベルです。資金流用で約7兆円、運用損で5兆円、でトータル12兆円が消えてしまい、その責任追及をしないまま年金給付開始年齢を75歳に引き上げるなどという政治家がいるから呆れてものが言えません。日本年金機構はシビリアンコントロールが働いていない最悪の例と言えるでしょう。個人的には日本に年金を払ってなくて良かったと思っている次第です。私はそれでいいですが、日本国民はもっと怒りを表明し、責任追及すべきだと思います。

話は書評から若干それてしまいましたが、この本は『全省庁暴露読本』と言うほど暴露にはなっていません。過去に明らかになったスキャンダルや問題を省ごとに整理して羅列した感じです。改めてまとめて読むには参考になるとは思いますが、知られざる新事実を期待している場合は裏切られたと思うこと請け合いかと思います。

エピローグでは中央集権制度が官僚制度の腐敗の原因であると批判され、地方分権推進のための道州制が提案されています。州ごとに「政府」を置き、無駄となった中央省庁は廃止するというアイデアですが、既存権益にしがみつこうとする人たちがあまりにも多いことが予想され、恐らくまともな議論にすらならないのではないかと考えられます。第二次世界大戦直後なら実現したかもしれませんが…

ドイツはよく知られているように完全な地方分権です。何が連邦の管轄で、何が各州の管轄なのかという役割分担はドイツの憲法である基本法(Grundgesetz)に定められています。だから何度も憲法改正する羽目になったワケですが… それはともかく地方分権は一長一短です。従って、日本で道州制という地方分権を推進すれば、ある問題は解決するかもしれませんが、新たな問題も生じることになるのは必至です。

因みに高橋氏は消費税に関して、「世界を見れば、各州で税率が違うというのはごく当たり前のことです」と、さも消費税が全国一律税率である日本のシステムが異常であるかのように書いてますが、それは違います。アメリカやカナダの例しか挙げてないことからも察することができる方はいるでしょうが、ヨーロッパでは消費税は国ごとに一律であるのがデフォルトです。地域差が出るのは例えばドイツの場合は法人税や土地取得税などです。

元財務省キャリア官僚ということに興味を引かれ、高橋洋一氏の本を3冊読み、大体この方の考え方や主張は理解できたので、これ以上彼の著作を読む必要はないかなと思い出している次第です。


書評:高橋洋一著、『経済政策の“ご意見番”がこっそり教える アベノミクスの逆襲』(PHP研究所)

書評:高橋洋一著、『消費増税でどうなる?日本経済の真相ー2014年度版』(中経出版)

書評:長谷川幸洋著、『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)