長尾景虎 上杉奇兵隊記「草莽崛起」<彼を知り己を知れば百戦して殆うからず>

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イレーナ・センドラー もうひとりのシンドラーブログ連載小説1

2013年01月01日 12時13分54秒 | 日記
小説
もうひとりのシンドラー


    ユダヤの母、イレーナ・センドラー

                 total-produced&PRESENTED&written by
                   Washu Midorikawa
                   緑川  鷲羽




          this novel is a dramatic interoretation
         of events and characters based on public
         sources and an in complete historical record.
         some scenes and events are presented as
         composites or have been hypothesized or condensed.





 ”高く登ろうと思うなら、自分の脚を使うことだ。高いところへは他人によって
  運ばれてはならない。ひとの背中や頭に乗ってはならない。”

              ニーチェ作「ツァラトゥストラはかく語りき」


  …この物語は一部フィクションです。実在する人物、団体、組織など、この物語のストーリーとはまったく関係がありません。……





         もうひとりのシンドラー あらすじ

  一九四二年、ポーランド。主人公のイレーナ・センドラーはポーランドカトリック教会の慈善活動家だ。収容されていく囚人の子供たちを2500人救った。しかし、イレーナはただ自己の利益だけを考えている訳ではなかった。イレーナの救出から数年後。ナチス・ドイツの核疑惑や収容所人権弾圧問題、ホロコースト、侵略疑惑、テロ疑惑、アヘン製造などの問題が持ち上がる。そして、ヒトラーが負け始める…これによってナチス・ドイツやイレーナ・センドラーの事業も一変してしまう。隔離区では反ヒトラーの粛清が開始され、イレーナの救出した親たちも次々と殺されていく。
「このままじゃユダヤ人たちが世界から抹殺されてしまうわ」
 イレーナは実力者アドラル・シェペルに訴え、労働者たちを収容所の近くの工場で働かせることに成功する。その間、食料難で餓死者が続発。そしてついにヒトラーは南侵を決行してしまう。果たしてナチス・ドイツは、イレーナ・センドラーはどうなってしまうのか?! イレーナ・センドラーはやがてユダヤ人たちの児童を救い、ナチス・ドイツ崩壊、ヒトラー自殺のあと、死刑……皆に感謝された彼女だが、やが生存が確認され、晩年は栄誉に包まれる。
 影を引き摺りながら常に上をみつづけたイレーナ・センドラーの人生はそれで終わった。                                   おわり


   制服姿の若いナチス青年兵士とって、ナチス・ドイツ祖国の山中の鬱蒼とした草原は見慣れた光景だったが、状況は尋常ではない。
 死骸がある。しかも、大量に山積みされている。死骸は首がひん曲がったものや、内臓や脳味噌が飛び出しているような死骸もある。男も女も子供も老人も、山積みされている。 泥のような顔や皮膚であったが、若い兵士には見覚えがあった。
 間違いなく、近くの、収容所のガリガリに痩せた囚人たちである。
 やがてショベルカーがきて、死骸の山を大きく掘った穴に押しいれていく。まるでゴミ扱いである。青年はその光景をみて、頭頂から爪先まで、冷気が走るのを感じ、手足が震えた。すると、彼の上司が笑って、「連中にはこうするんだ」と短銃を腰から抜くと、死体に三発の弾丸を食らわせた。上司が笑いながら去ると、青年は嘔吐した。


第一章  ヒトラーの敗北





       1 イレーナ・センドラー



  一九四一年、ナチス・ドイツ。ーー
 確かにそれは嫌な時代だった。
 ポーランドに住む二十歳の女性・イレーナ・センドラーはポーランドカトリック教会の慈善活動家であった。イレーナが新しい救出を始めるか始めないかの時点でも、国内12ケ所に設けられた強制収容所に大勢の人々がぶち込まれていっていた。強制収容所は例えば、アウシュビッツ、ダッハウなど様々だ。そこにトラックや列車で運ばれて、無実の人々がぶち込まれる訳だ。
 イレーナ・センドラーは疲れていた。
 食料難や収容所のことで頭を悩ませ、眠れぬ夜が続いた。それでも彼女は、だるい体をベットから起こして、むりに伸びをした。そして、ふあ~っ、と言ったあとに、洗面所へとのろのろ向かった。
 イレーナ・センドラーは髪を結んだ。
 イレーナ・センドラー(ポーランド語の本名はイレナ・センドレロヴァのちのイレナ・ズグジュムプカカ)1910年2月15日~2008年5月12日までの生涯である。
 難民、餓死者、テロ、ホロコースト……と、気掛かりばかりだ。
「わが祖国・ポーランドはどうてしまうのだろう?」彼女はひとりごとを言った。
 イレーナの祖国・ポーランドはナチス・ドイツにより侵略されヒトラーの命令の元、国内にユダヤ人強制収容所が建設されていた。
 ナチス・ヒトラーはだの独裁国家だったのだ。イレーナ・センドラーは少なくとも、その祖国の現状を知っていた。彼女は英国やアメリカにもいったことがあり、遠くから見る祖国・ポーランドがあまりにもいびつな国であることを知ってしまったのだ。
 ゲットーではヒトラーからなる粛清が開始され、労働者たちも次々と殺されていく。強制収容所、核ミサイル開発、テロ、飢餓、軍備拡大、ヒトラーの幼稚なプロパガンダ、アヘン密造、偽札偽造、武器輸出、人さらい、人権弾圧、独裁政治、売春、強姦、スパイ………頭がおかしくなるほどドイツはひどい状態だった。
 イレーナ・センドラーはそれらを受け入れるような度量の広い男ではない。
 もっとも、それらの国家的犯罪を受け入れる馬鹿はいまい。いかにヒトラーの巧みなプロパガンダにドイツ国民が騙されているにしても、それらの真実をイレーナは知っていた。 ……だが、今は無理ね。
 ユダヤ人には移動の自由どころか、言論の自由も何もない。ただ、ただ、ナチス思想とヒトラーの崇拝を強要されている以上、ドイツ人民に何をいっても無駄というものだ。
 だから、
「ナチスはどうしようもない。何が”地上の楽園”…よ」
 と、イレーナ・センドラーは心の中で思ってしまった。

  一九四一年の段階でも、ユダヤ人、反体制派の国民や無実の人間たち、女でも男でも子供でも、トラックでダッハウなどの収容所にぶち込まれていっていた。誰も助けはしない。そりゃあそうだ。そんなことをしたら、すぐに銃殺されてしまう。
 誰だって命はおしい。

 イレーナ・センドラーだって怖いに違いない。
 髪を結ぶと、タオルで顔をふいた。そして、鏡を除きこんだ。……いい女だ。イレーナはルックスはよかった。鼻も高く、髪もふさふさで、エレガントな感じだった。
 彼女は洗面所を出て、クローゼットに向かうと、背広などを取り出して、着た。上着の胸ポケットの近くに『ダビデの星』をつけ、看護婦書を鞄に入れた。1042年「ポーランド地下国家(polish underground statel)と反ホロコーストレジスタンス「ジェゴダ」で活動していた。やがて2500人にも及ぶユダヤ人の子供たちを見付からないように鞄や服にワルシャワ・ゲットーから救出し、(ヨランタJolanta)の偽名の元に偽造書類を作成したりしてゲットーの外の個人やグループの元に託した。つまりユダヤ人児童(ときには赤子)をゲットーの外に隠れて連れ出し、養子縁組されて2500人ものユダヤ人児童の命を救ったのだ。
  ナチスはユダヤ人をガスで殺して、同じ同胞の人々も収容所におくって殺しているのだから、考えてもみればもっと酷い。ヒトラーは人気だったが、負けてた頃のヒトラーは必死だった。状況はナチスよりも酷い訳だ。
 だが、誰も不平不満はいえない。そんなことを言ったら、すぐに銃殺されてしまう。

  イレーナ・センドラーは身支度を済ませると、車に乗り込み、自宅を後にした。まだ早朝で、人通りも少ない。
 この朝は非常にいい天気であった。
 春の陽気…ってところか。薄い雲が空のブルーに漂い、きらきらとした陽の光りが照り付ける。どこまでも続くようなコバルト・ブルーの空…それは目の前の恐怖を少なからずやわらげてくれるような感じなのだ。
 陽射しを浴びて、川辺はきらきらとハレーションをおこす。それは、
 幻想、
 であった。…そう幻想だ。”地上の楽園”も”世界一の民主国家”も”ヒトラー”も、なにもかも幻想だ。夢だ……独裁者の夢。妄想。幻想。夢、幻。
「いいかげんおかしいじゃない?」
 イレーナ・センドラーは車のハンドルを握りながら言った。「何が”地上の楽園”よ!なにが”世界一の民主国家”よ!」彼女はひとりで怒りに震えた。無理もない。祖国の現状をちゃんと理解していたなら、誰だって怒りに震えて当然。ナチス・ドイツが”地上の楽園”だ、などと思っている人間がいるとしたら、それは精神異常者かマインド・コントロールにかかっている人間だろう。それか、「無知」か、どちらか、だ。
 イレーナ・センドラーは精神異常者でもマインド・コントロールにかかっている人間でもない。もちろん「無知」でもない。だからこそ、怒りを持つのだ。だから、
「ヒトラーはどうかしてる……」
 彼女はそう考えてしまったのだ。


  ある夜ーー
 あるバーで、特権階級によるパーティが開かれていた。集まったのは最高幹部などで、国民のほとんどは飢餓に苦しんでいるのに、ここでは酒や料理…といってもサヤエンドウなど…などなどがふるまわれ、陽気なパーティだった。ナチス党の幹部、安全部の幹部や部下、実業者、軍幹部……その中に、イレーナ・センドラーの姿もあった。
 保衛部大佐・ゲシェルの姿もそこにはあった。ゲシェルは、部下のシュミットと仕事の話しをしていたのだが、彼とて男……近くで踊るトップレスの美女たちに視線がいっていた。たわわに揺れる乳房、ふっくらとした丸いお尻……それらはゲシェルをおおいに満足させた。
 彼は女好き、である。
 女房はいるが、他に数名の愛人もいる。また、ここでは日本円にして1万円ほどで女優並の娼婦となにもできる。まさに特権階級にとってはここは”地上の楽園”だ。
 イレーナ・センドラーはゲシェルに目をつけていた。
 そうしながらもイレーナは、醜悪な安全部や保衛部の連中に冷ややかな目をおくった。…無理もない。イレーナにとって彼等は”欧州の癌”なのだ。
「…ちょっと」
 イレーナ・センドラーはボーイを呼び止めた。
「なんでしょう?」
「あの人にウォッカを………」
 イレーナ・センドラーはそういって、ボーイに金を渡した。
「…かしこまりました」
 ボーイはえらく丁寧に答えて、頭をさげた。これが連中のやり方なのだ。金と権力のあるやつにはペコペコ、その他は「クズ」。……まるでカースト制、だ。
 しばらくして、ジシェルらの元に酒ボトルが届けられた。
「なんだ? たのんどらんぞ」
「……あちらの方からです」
「……ん?」
 ボーイが去ると、ジシェルは不思議な顔をした。あの女(イレーナ・センドラー)がわしに? まさかセックスの相手じゃあるまいな? なんの目的で……?
「おい」
 ジシェルは顎をしゃくって、部下に命令した。「名前をきいてこい」というのだ。
「はっ」
 シュミットはすぐに席を立ち、彼女の元へやってきた。
「……失礼ですがお名前は?」
 シュミットは、ビジネス口調のまま尋ねた。
「…イレーナ・センドラー。ナチス党党員ナンバーは二四三六七番」
「イレーナ・センドラーサマ、お酒をありがとうございます。……なんの目的で?」
「いえ、お近付きの印にね」
「……そうですか。一緒にどうです…?」
「席を一緒に…?」
「はい」シュミットは、うなずいた。
「……なるほど、それもいいわね」
 イレーナ・センドラーはそういいながら、魅惑のホストに目を配った。彼は笑った。OKという訳だな、彼はそういうと立ち上がり、ホステスの腰に手をまわしジシュルの元へと歩いていった。
「…イレーナ・センドラーです。よろしく」
「くくくつ」ジシェルは笑って「保衛部大佐のジシェル、こっちは部下のシュミットだ。そしてこっちがマーク、トマス……」
「よろしく」
 彼女は言った。
「乾杯といこう」ジシェルは上機嫌だった。乾杯してなごもう、という訳だ。
「いいですね、何に?」
「偉大なるヒトラー偉大なるヒトラーさまに!」
 こうして乾杯とあいなった。
 しかし、イレーナは心の中で、糞ったれのヒトラーに死を! ……と願った。当然だろう。あいつは超A級戦犯なのだ。祖国を無茶苦茶にした独裁者なのだ。
 彼らは酒を飲むと、サヤエンドウを齧った。食料難のため、こんなものしかない。だが、食べられるだけマシなのだ。情報では、
”「男たちは食糧配給を減らされないために仕事にいっているだけなのです」
 ある女性は言う。
 これは男たちが月給をもらうためではなく、配給の権利を得るために働きにいく、という意味だ。商店はあっても食糧や物が売られてないナチス・ドイツでは、月給より配給のほうが遥かに重みがあったという。
 配給を確保するのは男より女の仕事だ。北の一日の生活は朝四時に起きることから始まる。クモンタン(質の悪い練炭のようなもの)に火をつけて料理をつくるのだが、火がうえまでいくのに時間がかかる。四時くらいからやらないと七時頃出勤する夫や子供の朝食に間に合わないのだという。朝食はトウモロコシの配給のものでスープをつくる。米はもう配給されていないという。主食は”トウモロコシの御飯”。食事の後は次の日の配給について心配しなければならなったという。配給の順番がワイロなどによりコロコロ変わるからだったという。” という。しかし、一般人が食うや食わずの中でも、ヒトラーらはたらふく美味しい肉や魚などを食べていた。もちろんこの情報は口コミで市民にも伝わり、秘密理の反政府活動へと繋がるのだが、あまりに弾圧が厳しくてデモもやれない。
「自分ひとりが逮捕されるならデモもやるさ」
 あるひとは口惜しいと嘆いた。「だが、それで、自分だけでなく親族や親類皆がまきこまれて、収容所にいれられて殺されるかと思うと、なにも行動をおこせなかったのです」”


  イレーナ・センドラーらは、酒を飲んで盛り上がっていた。それに訝し気な視線を送っているひとりの人物がいた。軍部少将・ジェドラーで、ある。
「騒がしいな、あの女は………」
 ジェドラーは不快感をあらわに呟いた。
「イレーナ・センドラー様です」ボーイは酒をもってきたついでに答えた。
「……イレーナ・センドラー?ふん」
 ジェドラーは鼻でわらった。……騒がしい女だ。まるで売女じゃないか……くだらん! 彼はそう思った。ジェドラーはかっぷくのいい体躯で、丸い中年男である。軍の大物で、食事をよくとっているためか額や頬に脂がのっている。出掛けに髭をそってきたのか、顎のあたりが青々としていた。彼は、偏見屋である。やれ、女はダメだ、若者はダメだ、ヒトラーの国は最高で、アメリカは最低の帝国主義国家だ、などと偏見を常に口にする。
 しかも、誰も彼に本当のことを教えぬから、もうそれはひとつの信念にさえなっている。 ジェドラーはそんな男だ。
「騒がしいな、あの女は………」
  彼は呟いた。
 その”騒がしい”イレーナ・センドラーの方はというと保衛部の連中と楽しく写真をとっていた。
 パシャパシヤとカメラがたかれる。イレーナらは笑顔で集まった。そして、イレーナは保衛部の連中にワイロを渡すのを忘れなかった。しかし、ここでいうワイロとは金のことではない。商店があってもモノや食糧のないドイツでは、金があっても役にたたない。ワイロは配給券だ。金では腹がいっぱいにならぬ。ナチス・ドイツでは、配給されるトウモロコシのほうが金よりよっぽどありがたいのだ。

  ナチス・ドイツでは情報鎖国をしていた。
 ヒトラーへの絶対服従思想でできていた独裁国家としては、外国からの情報は有害である。例えば、米国でデモがあって、そのニュースをナチス・ドイツ人がラジオで聴いただけでびっくりするだろう。自分達より米国人は”貧困で貧乏”と政府がいっていたのに、ちゃんとした服をきていて彼等の背後には立派な高層ビルやデパートがある………。自分達は騙されていたのだ……そう思うに違いない。
 ナチス・ドイツでは情報鎖国をしていた為、口コミ社会にもなっていた。日本軍の真珠湾攻撃もドイツの敗北も、すべて口コミで伝わった。
 しかし、この口コミも「民営化」されている訳ではなさそうだ。
 デリケートな問題にたいしては情報操作が行われている可能性が高かった。現実に、核保有疑惑については一般ドイツ人は知らないかったという。
 だが、核爆弾については知らなくとも、V2などのミサイルだけは知っている。……ドイツでは、”英国にV2号ミサイルが打ち込まれ、島がふたつほどなくなった”という作り話さえ広まったほどだ。
  ナチス・ドイツは間違いなく核兵器を持とうとしていた。
 


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