みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

建設者

2006-06-05 | work
家の目の前に新しいマンションが建設中で、毎日、工事の音がすごい。
引っ越してきてからずっとそうだったんだけど、窓を閉めていたので
そんなに気にならなかった。

が、ここ最近、エアコンをかけるほどではないけど窓を開けたい季節。
それに伴い、建物の奥のほうはもうだいぶ建っていて、うちのマンション側に
どんどん作業が近づいてきている状況。
窓を開けていると、工事の音だけでなくて、リーダーの声がよく聞こえてくる。
「おめえ、なにやってんだよ!」とか、
「ばっきゃろう!」とか。
かなりガラ悪い……。

そうだよな、ビルとか家とかって、こんなふうに建てられるんだよな。
よく考えたら、どんな高層マンションも立派なホテルも豪邸も、
結局はみんな人間の手作業なのだ。

人間ってすごいなー。

中学生のころ、
A「歴史問題です。法隆寺を建てたのは?」
B「聖徳太子!」
A「ブー。正解は、大工さんでしたー!」
というくだらないクイズがあったけど、あれって今思うとそのとおりだ。

ばっきゃろうと言われながら、ひとつひとつの作業をこなす汗まみれの彼らが、
昼休みに道端で弁当を広げているのを見ると、
「このマンションを建てたのはあんただよ! すごいよ!」と
お茶を出したくなるのは私だけでしょうか。

容量グラフ

2006-03-17 | work
最近一緒にお仕事させていただいた編集さんが、
夏過ぎに結婚して関西に引っ越すことになった。
婚約者の思いがけない転勤辞令で、やむなくそうなったらしい。
彼女は新卒からずっと出版社で働いてきて、30歳を目前にダーリンにもめぐりあえて、
ようやく今後の人生設計みたいなものができてきたころ。
これからもがんがん仕事するぞ!と思っていた矢先のことだったという。

私のようなフリーランスのライターにとって、相性の合う編集さんとのつながりは
とっても大きい。
彼女とは、今後もいいお仕事ができそうでうれしいな、と思っていたので、
正直ショックだった。でも、結婚はいい話。
「彼じゃないのかもという迷いはないけど、仕事のことを考えるとイタイです」と
言っていたけど、やりたいことを阻まれるような状況になっても「彼じゃないのかもという
迷いはない」と言えるのはすごいと思う。間違いなく彼だったんだね。

でも確かに、結婚によってこれまで積み上げてきたキャリアが一回白紙になるというのは
女性にとって本当に切実な問題だ。
もちろん、本人次第で、どこにいても輝くことはできるし、
何か新しいことをスタートさせるいい機会というとらえ方はできるけど、
実際に本人の立場になったらその悩みは深いと思う。
だからって最初から別居っていうわけにもいかないし。

結婚も仕事もなんて欲張りだ、と言う人もいるけど、そうだろうか?
私は欲しい。両方の幸せ。そう願うのが自然だと思う。

それまで自分の中で100だった仕事を50に減らして、残りの50を家庭にあてる、
というような考え方をするととてもしんどくなる。
仕事も家庭も合わせて100ととらえるんじゃなくて、仕事も100、家庭も100。
ついでに趣味も100、交友関係も100。
そう考えたほうが、全部うまくいくということに気が付いたのは最近。
つまり、自分の容量100の中に、仕事も家事も育児も押し込めて分量配分をするんじゃなくて、
それぞれの「世界」の容量100の中で量を調整するということ。
円グラフじゃなくて、帯グラフが何本も縦にある感じ。この帯は増えたり減ったりする。
そもそも、自分の容量って一定じゃない。体調とかその時の状況で、300な時も20な時も
あるんだから。
そういう自分をゆるしてあげたほうがいい、と、このごろ思う。

今の私は、仕事70、育児90、家事70、引っ越し80、交友関係70、趣味20ってところかな。
引っ越しがすむまで仕事はもう少しセーブするつもりだったけどかなわず、
でも今ここで会っておきたい人たちもたくさんいて、濃い毎日を過ごしている。
家が落ち着いたら、1週間くらい「街探索80」という帯グラフも作るつもりでいる。

なんだか話がそれちゃったけど、編集のKさん、ホントにおめでとう。
もうしばらく、東京でのお仕事おつきあいくださいね。


運命の人

2006-02-09 | work
今やってる仕事のひとつ。
ある公募で選ばれた一般の方に、パートナーとの出会いのエピソードなどを
電話やメールで追加取材して原稿を起こす、というもの。

最初は、
こういうのって、あんまりしつこく聞くのもどうなん?
と思ったのだが、
けっこう皆さん、快く取材に応じてくださる。
下は3歳から、上は64歳まで、と年齢層も幅広い。

しかし、つくづく、運命の出会いってあるんですねぇ。
「ええっ、そんなことが!」っていう、偶然が呼んだ偶然というか。
どれもこれも、心温まるものばかり。
そして素敵なのが、そういう出会いをすごく大切に胸に抱いていて、
出会いっぱなしじゃなくて、ちゃんと関係を育んでいるってところ。
なんだなんだ、世の中、こんなに愛にあふれてるじゃん!
日本もまだまだ捨てたもんじゃないなあと思った。

64歳のご婦人は、ご主人と出会ったときの40年以上も昔のことを
まるで昨日のことのように詳しく話してくれた。
そして、
「今もやさしいのよぉー
ですと。あてられましたわ。

「あいのり」を観ていても思うけど、やっぱり
まじめに人と向かい合った人にだけ、いい恋は訪れるんだと思う。
久しぶりに恋する感覚なんかを思い出したりしました。



耳で書かれた本

2006-01-24 | work
今やっている仕事のひとつに、全盲の男性の手記を一冊にまとめる、というものがある。
著者のKさんは83歳。40歳の時に病気を告知され、だんだん見えなくなって70歳で視力を失った。

その手記は、すべて音声ソフトを使ってパソコンで書かれた。
つまり、ブラインドタッチで打ったものを耳で聞きながらの原稿執筆である。
Kさんは、その技術を失明後の70歳を超えてから初めて学び、習得している。
原稿用紙に換算して、330枚。
書きっぱなしの原稿をこっちで勝手にまとめるというのではなく、
こちらが校正したものをKさんがまたパソコンで全部聞き直し、
さらにKさんが加筆したものが送られてくるというやり方で進行した。
紙に赤ペンで書き込むという方法が取れないので、お互いにわかりやすい記号を決めて、
データ上でいちいち確認を取りながらの細かい作業だった。

だからものすごく時間がかかったし、パソコンに不具合が生じるとお手上げだった。
Kさんのお住まいが名古屋なのでさっと逢いにも行けず、
頻繁に電話をして連絡を取り合い、添付ファイルが開けない時はフロッピーを郵送した。
それがやっと大詰め。来月半ばに出版される。

この本の担当になってすぐ、目をつぶって音声ソフトを使ってみた。
慣れていないせいもあるけど、これがものすごく難解。体力もいる。
パソコンから聞こえてくる機械的な音声を頭の中で字に変換するのが容易ではないし、
耳で聞くと、書きたいこととは違っているような気がしてしまう。

それをやってのけるKさん。
さらに驚くことに、彼は本人の希望で一人暮らしをしている。

失礼な話だが、あんなにお年なのに、電話でのKさんはいつも快活だ。
私はKさんから比べればまだまだ若いのに、ぐずぐずと体調をくずしてばかりいる。
彼のあの強さはどこから来るのだろう。

私が息子の遠足の話をしたら、「リュックをしょっている姿が目に浮かぶようだ」と
言ったKさん。全盲である彼の「目に浮かぶ」という表現が、逆にものすごくリアルだった。
Kさんはいつもいつも、そんなふうにいろんなことを目に浮かばせながら生活しているのだろう。
「目が見えなくなってから頭が良くなったような気がするんですよ」なんて笑うKさんから
たくさんのことを教わった。私にとって、特別な仕事になった。