昨日、劇団民藝の『白い花』という舞台を観てきましたが、素晴らしいものでした。新宿で23日まで行われているので、ぜひ足をお運びください。
では、昨日の続きです。
今度は「おわりに」と題された文章の一部を転載させていただきます。
思えば、「平成」という時代はバブルとバブルの崩壊から始まったが、経済学の有効性が厳しく問われる時代でもあった。大恐慌がケインズやシュンペーターや計画経済を産み落としたように、100年に一度の経済危機は新しい経済学の考え方が創造されねばならない時なのだろう。現実が変われば、理論は革新を求められていく。理論に現実を押し込めようとすれば、政策はかえって破綻を導くからだ。現実に合わせて理論が革新されねばならない。今は、その途上にある時代なのかもしれない。
平成という時代を通じて、結局、財政金融政策を使ったマクロ経済政策も、規制緩和を中心とする構造改革も、「失われた30年」を克服できないどころか、症状を重くするばかりだった。アベノミクスの失敗はその集大成にすぎない。そして、従来の主流経済学は、マクロ経済学もミクロ経済学も日本経済の衰退に有効な処方箋を提示できないでいる。こういう中から行動経済学ビッグデータを使った統計解析など新しい経済学の動きも出てきているが、まだ未成熟で有効な政策体系を打ち出せていない。
他方、マルクス経済学は、社会主義はもともと集産主義(collectivism)の意味であって多様な形態があるとはいえ、1990年代初めの「社会主義」体制の崩壊とともに、影響力は大きく減じた。国家が巨大な設備投資をコントロールするという政策が有効性を持っていた重化学工業の時代が終わるとともに、有効な政策を打ち出すことはできなくなったのである。もちろん、資本の無限の価値増殖や資本蓄積という概念は、近年の格差拡大についてひとつの説明を与えているが、主流経済学とは異なる全体的な体制概念を提供するという魅力はもはやない。
こういう中で、バブル崩壊後に訪れた「失われた30年」を克服するために、筆者なりに悪戦苦闘しながら日本経済を分析し、セーフティーネット概念の革新、反グローバリズム、長期停滞、脱原発成長論などをキー概念にして、その時々に具体的な政策提案を行ってきた。と同時に、自分がどのような方法論に立つかについても、拙い考えをめぐらせてきた。それは、ゲノム科学の成果を踏まえつつ、児玉龍彦との共著、『逆システム学 市場と生命のしくみを解き明かす』(岩波新書、2004年)と『日本病 長期衰退のダイナミクス』(岩波新書、2016年)となっている。
この二著で書いたのは、制度経済学の病理的アプローチとでも言うべき方法であった。前者は、市場を「制度の束」ととらえ、多重な調節制御の仕組みを解き明かすことで、できるだけ副作用のない政策の組み合わせを提示する方法を考えたつもりである。後者は、歴史的動態的な変化をとらえる際に、周期で変化を見つつ断絶的な非線形的変化がなぜ起きるかを解き明かすとともに、階層的に積み上げられてきた調節制御の仕組みのどこが壊れて「病気」になっていくかを解明する試みであった。なおも方法的に未熟な部分が多く残っているが、本書もそうした観点が応用されている。(後略)
最後に、本文の中で書きとめておきたい文を以下に示します。
・世界経済に占める日本の地位低下は著しい。
・安倍政権の下で、その歪みが次々と表に出てきている。三菱自動車、神戸製鋼、旭化成建材、東洋ゴム工業、日産自動車、スバル、三菱マテリアル子会社、三菱電機子会社、東レ子会社、KYB、日立化成、クボタ、IHIなど、名だたる一流企業がデータ改竄に手を染めていることが露見した。
・一人当たり所得のランキングで見ると、日本は25 位(2017年)まで落ちている。日本は、必ずしも「豊かな国」とは言えなくなった。
・もはや有効求人倍率は「景気が良い」指標と言い切ることはできず、少子高齢化と地域衰退の指標でもあるのだ。
・重複する部分もあるが、高齢者、非正規雇用、障がい者などを単純に合計すると、一億人の半分以上になる。
・自民党政権は(中略)地域を壊す政策をとってきた。(中略)とりわけ小泉「構造改革」の下で、地方交付税を大幅に削り、診療報酬を継続的に引き下げたり臨床研修医制度の「自由化」で医師偏在問題を引き起こしたりしたことで地域医療の中核となる公立病院が経営困難に陥るケースが数多くでた。
・1990年代初めに世界中で不動産バブルが崩壊したと同時に、旧ソ連邦と東欧諸国で「社会主義」体制が崩壊した。それを契機にして、バブルが崩壊したにもかかわらず、「新自由主義」イデオロギーに基づくグローバリズムが世界中で吹き荒れた。しかし、それはリーマンショックに行き着き、今度は極右ナショナリズムとポピュリズムを産み落としている。
(また明日へ続きます……)
→サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
では、昨日の続きです。
今度は「おわりに」と題された文章の一部を転載させていただきます。
思えば、「平成」という時代はバブルとバブルの崩壊から始まったが、経済学の有効性が厳しく問われる時代でもあった。大恐慌がケインズやシュンペーターや計画経済を産み落としたように、100年に一度の経済危機は新しい経済学の考え方が創造されねばならない時なのだろう。現実が変われば、理論は革新を求められていく。理論に現実を押し込めようとすれば、政策はかえって破綻を導くからだ。現実に合わせて理論が革新されねばならない。今は、その途上にある時代なのかもしれない。
平成という時代を通じて、結局、財政金融政策を使ったマクロ経済政策も、規制緩和を中心とする構造改革も、「失われた30年」を克服できないどころか、症状を重くするばかりだった。アベノミクスの失敗はその集大成にすぎない。そして、従来の主流経済学は、マクロ経済学もミクロ経済学も日本経済の衰退に有効な処方箋を提示できないでいる。こういう中から行動経済学ビッグデータを使った統計解析など新しい経済学の動きも出てきているが、まだ未成熟で有効な政策体系を打ち出せていない。
他方、マルクス経済学は、社会主義はもともと集産主義(collectivism)の意味であって多様な形態があるとはいえ、1990年代初めの「社会主義」体制の崩壊とともに、影響力は大きく減じた。国家が巨大な設備投資をコントロールするという政策が有効性を持っていた重化学工業の時代が終わるとともに、有効な政策を打ち出すことはできなくなったのである。もちろん、資本の無限の価値増殖や資本蓄積という概念は、近年の格差拡大についてひとつの説明を与えているが、主流経済学とは異なる全体的な体制概念を提供するという魅力はもはやない。
こういう中で、バブル崩壊後に訪れた「失われた30年」を克服するために、筆者なりに悪戦苦闘しながら日本経済を分析し、セーフティーネット概念の革新、反グローバリズム、長期停滞、脱原発成長論などをキー概念にして、その時々に具体的な政策提案を行ってきた。と同時に、自分がどのような方法論に立つかについても、拙い考えをめぐらせてきた。それは、ゲノム科学の成果を踏まえつつ、児玉龍彦との共著、『逆システム学 市場と生命のしくみを解き明かす』(岩波新書、2004年)と『日本病 長期衰退のダイナミクス』(岩波新書、2016年)となっている。
この二著で書いたのは、制度経済学の病理的アプローチとでも言うべき方法であった。前者は、市場を「制度の束」ととらえ、多重な調節制御の仕組みを解き明かすことで、できるだけ副作用のない政策の組み合わせを提示する方法を考えたつもりである。後者は、歴史的動態的な変化をとらえる際に、周期で変化を見つつ断絶的な非線形的変化がなぜ起きるかを解き明かすとともに、階層的に積み上げられてきた調節制御の仕組みのどこが壊れて「病気」になっていくかを解明する試みであった。なおも方法的に未熟な部分が多く残っているが、本書もそうした観点が応用されている。(後略)
最後に、本文の中で書きとめておきたい文を以下に示します。
・世界経済に占める日本の地位低下は著しい。
・安倍政権の下で、その歪みが次々と表に出てきている。三菱自動車、神戸製鋼、旭化成建材、東洋ゴム工業、日産自動車、スバル、三菱マテリアル子会社、三菱電機子会社、東レ子会社、KYB、日立化成、クボタ、IHIなど、名だたる一流企業がデータ改竄に手を染めていることが露見した。
・一人当たり所得のランキングで見ると、日本は25 位(2017年)まで落ちている。日本は、必ずしも「豊かな国」とは言えなくなった。
・もはや有効求人倍率は「景気が良い」指標と言い切ることはできず、少子高齢化と地域衰退の指標でもあるのだ。
・重複する部分もあるが、高齢者、非正規雇用、障がい者などを単純に合計すると、一億人の半分以上になる。
・自民党政権は(中略)地域を壊す政策をとってきた。(中略)とりわけ小泉「構造改革」の下で、地方交付税を大幅に削り、診療報酬を継続的に引き下げたり臨床研修医制度の「自由化」で医師偏在問題を引き起こしたりしたことで地域医療の中核となる公立病院が経営困難に陥るケースが数多くでた。
・1990年代初めに世界中で不動産バブルが崩壊したと同時に、旧ソ連邦と東欧諸国で「社会主義」体制が崩壊した。それを契機にして、バブルが崩壊したにもかかわらず、「新自由主義」イデオロギーに基づくグローバリズムが世界中で吹き荒れた。しかし、それはリーマンショックに行き着き、今度は極右ナショナリズムとポピュリズムを産み落としている。
(また明日へ続きます……)
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