gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

金子勝『平成経済 衰退の本質』その4

2020-02-22 12:51:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

・日銀の国債保有、株式保有は歴史上かつてない異常な水準に達し、日銀の資産は(中略)GDPとほぼ同じ規模に達した。その間に、国の借金は(中略)増加した。GDP比で見れば、これは戦時中の水準に匹敵する。

・国内では、東京オリンピックが終わると、それまで流入してきたヒトやカネが急激に引いて行くので、不動産バブルがはじけて景気が後退することが懸念されている。18年下期から不動産取引は減少しており、オリンピック前に、投機目的で買っている国内外の投資家が売り抜け、マンションや貸家バブルの破綻から大幅な値崩れが始まっていく可能性もある。銀行は、超低金利の下で貸付利息収入が極端に縮小しており、(中略)とりわけ地方金融機関は、(中略)不動産融資に傾斜しているところも少なくない。地方銀行や信用金庫を中心に金融機関が経営困難に陥り、引き取り手のない地銀・信金が出てくる可能性がある。そうなった場合、ただでさえ疲弊している地域経済は一層の困難に陥るだろう。

・では、現時点において産業戦略の中で、最も重要なものは何か。
 エネルギー転換である。
 それは、IoTを使った送配電網のインフラから省エネと建物の構造、そして耐久消費財を大きく変えてしまう。ヨーゼフ・シュンペーターがいう50年周期の「コンドラチェフ循環」の中でも、石炭と蒸気機関、電力と電化、石油とエンジンというように、エネルギー転換は波及する範囲が大きいがゆえに、膨大な需要と投資をもたらす可能性を秘めている。

・原発をはじめ「集中メインフレーム型」という20世紀型の仕組みは、同じモノを大量生産し大量消費することで成り立つ。大規模化を追求するので、人口が増え、所得や雇用が増え、作っているモノに国際競争力がないと成り立たない。しかし、いまの日本はこれらの条件が失われつつある。「集中メインフレーム型」の旧来型産業を守ろうとすればするほど、かえって地域から日本経済は壊れて行くようになっていくのである。
 一つ一つは小規模で分散していても、IoTやICTの情報通信技術を基盤に連携する「地域分散ネットワーク型」への移行が求められている。固定電話から携帯電話・スマートフォンへの移行、大型スーパーの不振とコンビニの隆盛が典型的な事例だろう。「地域分散ネットワーク型」への移行には情報通信技術が不可欠である。このような情報通信技術の活用を通じて、“毛細血管”でニーズがすばやく反映され効率化されていくことが必須だからである。
「地域分散ネットワーク型」のシステムへの移行は、社会保障制度も同じである。もはや国が現金給付を出して、民営化された医療・介護・保育・教育を買う仕組みは、財政赤字と格差の拡大によって限界に達してきている。実際、現状の社会保障制度を前提として、財政事情を理由に給付をひたすら縮小していくだけでは安心は得られない。そこで、財源と権限を地方に譲り、医療・介護・保育・教育といった現物サービスを地域できめ細かく対応できるようにしていくことが必要である。ここでも、IoTやICTの情報通信技術を基盤にネットワークを構築することで「効率化」と安心を同時に追求していくことができる。
 地域の基盤産業である農林業も、食の安全と環境を守るという点では、もはや大規模専業をモデルとする「集中メインフレーム型」の時代は終わった。小規模零細の農業を基盤に安全な農業こそ先進的なものである。しかし、コストが高く、収入が上がらない。それを六次産業化とエネルギー兼業でカバーしていくのである。ここでもIoTやICTの情報通信技術でネットワークを構築することが不可欠になる。
 こうして電力システム改革を突破口にして、持続可能な発展を実現するため、地域から逃げない資源や人間のニーズに基礎を置いた産業(エネルギー、食と農、福祉)において雇用を創出する。それを基礎にして、インフラ、建物、耐久消費財などでイノベーションを引き起こすのである。

・イノベーションに関しては、ヨーゼフ・シュムペーターが最も有名である。その主著『資本主義・社会主義・民主主義』(中山伊知郎・東畑精一訳、東洋経済新報社、1995年)は依然として示唆に富む。しかし、技術転換と産業革新に関しては企業家精神の衰退に直面してどこか「悲観的」で、政策論としては、『租税国家の危機』(木村元一・小谷義次訳、岩波文庫、1983年)におけるタックス・ハンドルくらいしか提示されていない。これに対して、マリアナ・アッツカート『企業家としての国家 イノベーション力で官は民に劣るという神話』(大村昭人訳、薬事日報社、2015年)がある。情報通信や再生可能エネルギーを事例に、基盤技術の開発や初期投資の赤字をまかなう国家の役割を強調している点で興味深い。

 本の内容は以上です。面白くて一気に2日で読み終えてしまいました。

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →ブログ「今日の出来事」(https://green.ap.teacup.com/m-goto/