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津村記久子『ウエストウイング』

2013-10-24 10:17:00 | ノンジャンル
 松浦寿輝さんが朝日新聞で紹介していた、津村記久子さんの12年作品『ウエストウイング』を読みました。
 様々なテナントが入っている、4階建ての椿ビルディングの一室で営業補助の仕事をしているネゴロは、仕事の息抜きに物置き小屋をよく訪れます。ネゴロの下についているりさちゃんは、仕事をなかなか覚えません。一方、同じビルにある塾に通っている小六のヒロシは、空想でいろんな話を作ることや、絵を描くのが好きで、やはり息抜きに物置き小屋をよく訪れます。ある日、ネゴロはデスクペンのカートリッジを切らしますが、たまたま物置き小屋のデスクでそれを見つけます。彼女はそれをもらい、代わりに『デスクペンのカートリッジをお借りしました。今回助けていただいたかもしれないので、できる範囲で応相談』と書いたメモを置いてきます。それを見つけたヒロシは、カートリッジを置いたのは自分ではなかったにもかかわらず、たまたまカメラを描きたいと思っていたので『それでは一眼レフのカメラをお借りしたいです』というメモを残します。そのメモを見たネゴロは会社の備品からカメラを借り出し、物置き小屋に置きます。そしてネゴロは同僚から、りさちゃんんと自分の上司の課長が腕を組んで歩いていたという目撃証言を聞きます。
 しばらくして、ネゴロがまた物置き小屋に行くとカメラとネゴロの「応相談」のメモはそのまま残されていましたが、『すみません、至急必要になったので、チューブファイルのA4センチを18:30までにお願いします」というメモが新たに置かれていました。ネゴロはまた職場からチューブファイルを持ち出し、物置き小屋に戻ると、カメラはなくなっており、『カメラをどうもありがとうございました。できることはあまりないのですが、何かたのんでみてください』と大学ノートの切れ端に書いてありました。ネゴロは旅行のパンフレットの表紙に『でしたら旅行に連れて行ってください(うそです』と書き残します。
 ある日、ヒロシは女子トイレで水の流れる音が止まらないのを聞きつけ、たまたまそこを通っていたネゴロに声をかけます。女子トイレに入ったネゴロは、そこでりさちゃんが出産しているのを知り、救急車を呼び、女子トイレの周辺は大騒ぎになります。そして物置き小屋でネゴロのメモを見たヒロシは、消しゴムでモン・サン・ミッシェルの風景のゴム版画を作り、『旅行には連れていけませんが、はんこを作りました。どうもありがとうございました」と書いたメモとともに物置き小屋に置きます。一方、りさちゃんはあの騒ぎの後、そのまま退職してしまいましたが、ネゴロにメールで「赤ちゃんは無事に育っていて、高一の時から付き合っていた彼と結婚した」と書いてくるのでした。
 同じビルの建設関係の調査会社で働くフカボリは、やはり息抜きに物置き小屋を訪ねる一人でしたが、ある日、向かいの東棟からこちらに向かって変な顔をする者がいるの発見し、怖くなった彼は、そのことを書いて物置き小屋に置いて帰ります。彼は以前ゴミ箱から見つけたデスクペンのカートリッジを物置き小屋の引出しに隠し、それ以来、そこを訪れる見知らぬ人々と様々な物の交換をしてきていました。しばらくして、物置き小屋にはエステでの顔体操の紹介のパンフレットが置かれ、フカボリは自分の見たのが幽霊ではないことを知ります。一方、ヒロシは夕方から同じビルにあるレンタルロッカーでのアルバイトを始めることになります。
 ある日、夕方からすごい雨が降り出し、駅とビルを唯一結ぶトンネルが水没してしまいます。ヒロシは濡れそぼった人の靴下を乾かす仕事を臨時でさせられ、フカボリはビルでたまたま見つけたゴムボートで水没したトンネルを行き来して物を運ぶ仕事をします。ネゴロは同僚から頼まれた物をフカボリに運んでもらいます。 
 そしてしばらくして、物置き小屋から水洩れが起こり、その水が汚染されている可能性があるとして、3人は検査入院をさせられます。そして3人とも安全だと分かった日、解体される予定だったビルが解体を免れたことを3人は知り、また物置き小屋を使っていたのが自分たちであることを知るのでした。

 400ページ近い大著でしたが、文体は大変読みやすく、上記以外にも個性豊かで善良な人が大勢登場し、グランドホテル形式の、すがすがしい読後感が残る、気持ちのいい本でした。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto