海外のニュースより

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「ニューディール政策ではない」と題するポール・クルーグマンの論説。

2005年09月17日 | アメリカの政治・経済・社会
ニューディール政策以来のアメリカの救援と復旧のプログラムが始まる。前兆は良くない。
イラクを保守主義の経済政策の実験場に変えようとしたブッシュ政府は、同じことをメキシコ湾岸でもやろうとしている。カール・ローブが政府の回復計画を展開するのを助けた「ヘリティジ財団」は、既にカトリーナ以後の政策についてマニフェストを公表した。それは、環境ルールに対する権利の放棄、キャピタルゲイン税の廃止、災害地域での公立学校の建物に対する私的所有を要求している。そして「カトリーナ」で殺された人のいくらかが、--大抵は貧しい人々であるが、--150万ドル(1億5千万円)の財産を持っていれば、ヘリティジ財団は、彼らの相続人に対して財産税を免除することを望んでいる。
更に、保守主義者でさえ規制緩和や減税や私有化だけでは十分ではないということを認めている。復旧には、多くの連邦政府の支出が必要である。財政赤字に対する影響はおくとして、イラク戦争と莫大な再建努力に直面して減税の大盤振る舞いを見るはずであるが、これはもう一つの問題を投げかける。つまり、どうしたら自由裁量可能な政府支出が、同様に大規模な腐敗を引き起こさないで、なされうるかという問題である。
フランクリン・ルーズヴェルト大統領が1930年代に証明し、連邦政府支出の拡大を管理したように、正直に巨額の支出をすることは可能である。けれども、ニューディール以前に腐敗していると見なされた公的救援のイメージは、実際、著しく改善された。
それはどのようにして起こったか。答えは、ニューディール政策は、潜在的な腐敗に対するそれ自身のプログラムを規制することから崇拝の対象を作った。特に、ルーズヴェルト大統領は、雇用促進局(WPA)における不正行為についての苦情を調査する強力な「促進調査部」を創設した。この部局は、非常に効率的であると分かったので、後の議会調査は、それが見逃した重大な不規則性を見つけることができなかったほどである。
この正直な政府への約束はルーズヴェルト大統領の個人的徳の印ではなかった。それは政治的命令を反映していた。ルーズヴェルトの大統領職の使命は、政府の能動主義が機能しているということを示すことであった。その使命が信頼できることを主張するために、彼は彼の政府の記録を清潔に保つことが必要だった。
だが、ジョージ・W・ブッシュは、ルーズヴェルトではない。実際、重大な点で、彼はルーズヴェルトの反対である。
ブッシュ大統領は、政府の能動主義に対立する政治哲学に賛成している。それが彼ができるところでは、常にプログラムを縮小し私有化しようと試みた理由である。彼は社会保険(それはルーズヴェルトの最も偉大な遺産なのだ)も私有化しようとしている。彼の政策の失敗でさえ、彼の支持者を困らせない。多くの保守主義者達は、カトリーナに対する間の抜けた反応を自分たちの政府に対する信念の不足の言い訳であると見ていて、ブッシュ氏に対する自分たちの信念を考え直す理由だとは見ていない。
良い政府が可能であることを示すのに何の関心もないブッシュ政府の特徴を示すことは、それ自身を研究することをいやがってきた点にある。反対に、ブッシュ政府は、腐敗調査を阻止してきたし、それ自身の調査官が彼らの仕事をしようとすると、彼らを処罰した。
これがブッシュ氏が昨夜、自分は「あらゆる支出を再吟味する検査官のチームを作るだろうと約束した理由なのだ。誰がこの検査官になるにせよ、彼らは、バンナティン・グリーンハウスの運命を思い出すべだろう。彼女は、陸軍工兵隊の非常に尊敬された会計検査官であったが、彼女がイラクにおけるハリバートン社の契約について質問を出した後で非常に貧弱な財務報告しか手に入れられなかった。彼女は、先月降格された。
州政府や地方政府に基金を譲渡することは、答えにはならない。ルーズヴェルト大統領は、実際、地方の政治家からコントロールを取り去ることを主張した。当時も今も、恩恵は地方政治に大きな役割を演じている。
ミシシッピ州やルイジアナ州の住民に対するわれわれの同情は、彼らの州の政治文化に対してわれわれを盲目にしてはならない。ニュースレター「企業犯罪報告」によると、昨年、州の住民一人頭の腐敗有罪判決の数によれば、ミシシッピ州がランク一位であり、ルイジアナ州は、第三位であった。
ブッシュ氏が正直な復旧プログラムを請け合う何らかの方法はあるのか。ある。彼は復旧費用支出についての決定を政治から切り離し、政治的に独立した人あるいは(良き信頼の印として)民主党員をヘッドにした自立的な管理局の手におくことである。
昨晩、彼はそれをしなかったし、多分しないだろう。メキシコ湾岸の再建が、失敗したイラクの再建と同様、縁故主義と腐敗によって深刻に傷つけられるだろうと信じる十分な理由がある。
[訳者のコメント]ブッシュ政権になってから、縁故主義がはびこり、無能な人物が要職について大きな損害を与える例が目につきます。クルーグマン先生の舌鋒はますます鋭さを加えてきたように思います。日本でもこれぐらい鋭い政治・経済の評論ができる人はいないのでしょうか?
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