海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「資本主義対民主主義」と題するポール・サミュエルソンの論説。

2005年10月03日 | 国際政治
2005年9月28日に『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたもの。
最近のドイツと日本の総選挙は、より多くの注目に値する。なぜならば、それは資本主義と民主主義の間の不安定な関係を明らかにしているからである。資本主義は、変化の上で繁栄する。それは新しいテクノロジーや製品や利得の機会を引き起こす。これに対して、民主主義は、変化に逆らう。それは現状に対する関心をもった強力な支持層を作り出す。
資本主義という言葉で私は、市場と私有に重きを置く経済体制を意味しているのだが、それと民主主義はお互いを必要としている。一方は、生活水準の向上をもたらし、他方は、資本主義の不公正を和らげ、公的支持をつなぎ止める。だが、この相互依存は、油断がならない。なぜならば、民主主義の特権が振り回されると、その特権は資本主義の首を絞めるからである。
この両者の関係をどのように規制するかが、日本とドイツの選挙の核心問題だった。よく知られているように、彼らの経済はひどくよろめいていた。1997年以来、彼らの年間経済成長率は、平均1%で、アメリカの三分の一であった。1980年代後半と比べると、日本の失業者は二倍に増えた。ドイツでは、失業率は、十年間約10%を上下していた。
選挙権者は、反対の結論に到達したように見える。日本人は、選挙を彼の経済改革日程のテストにした小泉純一郎首相に圧倒的な勝利を与えた。対照的に、ドイツ人達は、もっと臆病であったように見える。選挙前の予想では、社会民主党(SPD)のシュレーダー首相は、攻撃的な経済改革を説いたキリスト教民主同盟(CDU)のメルケル女史に対して負けるだろうというものだった。しかし、選挙の結果は、どちらもほぼ同じパーセントの投票しか取れなかった。CDUは総得票数の35.2%を取り、SPDは、34.3%を取った。次の政府の首相に誰がなるかは不明である。
結果は異なるけれども、両国における経済的革新の見通しは、不確かである。「経済改革」を宣言するのと、それを遂行するのとは同じではない。日本では、小泉は、郵政公社をオーバーホールするのに勝った。郵政公社は、単なる郵便事業以上のものである。それは世界最大の銀行であり、日本の貯金額の30%を吸収している。『東洋経済レポート』の編集者であるハワード・カッツによれば、問題は、これらの金の大部分が無駄遣いされていることである。それは国債を引き受けているが、その金は疑わしい公共投資に使われている。どこにも通じていない道路や、舗装された河川敷などである。
小泉は、郵政公社を民営化したいと思っている。それを利益を生む会社に変えたいと思っている。そうすれば、それはもっと生産的な投資を助けるだろうし、経済を刺激するだろう。これは賢明であるように聞こえるけれども、それは経済の万能薬ではない。第一に、小泉の改革は、十年かかる。第二に、私有化された郵政公社は、まだ、大失敗をやるかもしれない。第三に日本には他の問題がある。例えば、国内での競争が少ない。老齢化社会である。対外投資が僅かであるなどなど。
同様に、ドイツの怠慢さには多くの原因がある。アメリカ大学の政治学者スティーブン・シルヴィアの研究によれば、「ドイツ経済における政府負担部分は、余りに大きくなりすぎ、もっと生産的な経済活動を押しのけている。雇用の費用は、特に非賃金コストが高くなりすぎ、競争を妨げている。」シュレーダー首相は、いくつかの変化はもたらした。彼は、気前の良い失業保険を削った。メルケル女史は、労働者の首切りに対する制限を緩和することを提案し、団体交渉を緩和しようと思っている。
これらの問題はアメリカ人にも関係がある。第一に、日本とドイツの経済は、世界経済成長の偏った性質を部分的に説明している。つまり、世界経済の成長は、アメリカの貿易赤字を拡大することに依存している。2000年から2004年まで、潜在的に、ドイツの僅かな経済成長のすべては、輸出の増大に由来するものであったし、日本の業績も全く一方的であった。多くのエコノミストは、このパターンがグローバルな不景気を増大するが故に、不安定であると見なしている。両方合わせるとアメリカ経済の規模の半分に達する日本とドイツの経済が、もっと強ければ、世界経済はより健全だろう。
関心の第二点は、役に立つ政治的教訓である。成功した民主主義は、国民に彼らの利害とライフスタイルを守る機会を与える。だが、これらの保護が、変えられない経済的現実を否定するとき、それは自己防衛的になる。更に、それらの保護は、変化する現実に適応することが困難である。なぜならば、変化は、現状から利益を得ている選挙区を怒らせるからである。アメリカ人が非常に複雑な税制度を持っている理由は、有力な有権者が疑わしい税金の選好を防衛するからである。同じ理由で、莫大なアメリカの財政赤字は、いつまでも続く。支出削減と増税は、怒りの連合を引き起こすからである。
人口の漸次的老齢化莫大な援助を必要とするが、誰も真剣にこの費用を抑えようとはしない。日本人もドイツ人も彼らの問題に対して同じ態度を取った。彼らは決算日が来ないことを望んでいる。だが、彼らはまちがっている。
[訳者のコメント]日本とドイツとが同じような経済的政治的問題を抱えていることが分かります。アメリカにも同じ問題があることを指摘する辛口の評論です。
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