2015年10月23日、静岡新聞社より【杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳】を発行しました。静岡新聞出版部の担当の方々が21日から県内書店に営業挨拶に回ってくださって、私も22日から取材関係者先に挨拶回りを始め、「もう書店に並んでたよ」「目立つところに平積みしてあったよ!」と言われてびっくりアタフタ。嬉しいフライングでした。
前作【地酒をもう一杯】から17年。亡くなった蔵元さんや杜氏さん、やむをえず店をたたまれた酒販店さんや飲食店さんもいらっしゃって、17年という歳月の重みを実感する取材でした。17年前のご自分の掲載写真を見て照れ笑いし、ご家族や従業員さんから冷かされるお元気な蔵元さんや店主さんから「お互い齢をとったけど、頑張ろうね」と言われたときは、酒の取材をライフワークにできたことを心底嬉しく思いました。
地方の出版・書販環境の厳しさは、地方の酒を取り巻く環境にどこか似ているところがあります。本を作る、売る、買う人の情熱もまた、酒を造る、売る、飲む人のそれに通じるところがあると感じます。本も酒も、生きていく上で必要不可欠な生活必需品、というわけではないかもしれませんが、本も酒もない人生なんて想像出来るでしょうか・・・文明を持ち始めてからの人類の歴史で、書物と酒のない時代なんてあったでしょうか。都会だろうが地方だろうが、その土地の文化を伝える大きな柱に違いありません。地方には地方の、本と酒が生き残る手法があるはずだ・・・そんなことを、挨拶回りをしながらつらつら考えました。
なんだが上から目線の物言いですみません。今回は【地酒をもう一杯】の改訂版というよりも、私の個人的な酒歴をベースにした読み語り風に仕上げてあります。このブログで書き溜めたネタもたくさん出てきます。表紙は静岡新聞出版部の20代の編集者兼イラストレーターに「同世代の読者がクールだと思うデザインにして」とお願いしたところ、こんな感じの、おんな酒場放浪記ふう(笑)になったのですが、若い人ってこういうのがクールなんだ・・・!と目からウロコでした(笑)。
本書の文末に用意した謝辞を紹介させていただきます。ページが足りなくなって、掲載した謝辞はうんと短くなってしまったのですが、ここでは全文を掲載いたします。
今後、【杯が満ちるまで】に載せられなかった写真等も、この【杯が乾くまで】で随時紹介してまいりますので、【満杯】【乾杯】ともによろしくお願いいたします!
ある料理人から「店に飲みに来た客に、この酒を造っている人はね…って話して聴かせ、会話が弾む、そんな物語を書いてほしい」と注文されたことがありました。解説本にありがちな「どういう味か」「どうやって造ったのか」より、「どういう人が造っているのか」。よく知られていない銘柄、知られすぎている銘柄にも、産みの苦しみがあり喜びがあります。「酒の味とは、造る人自身」―これが、四半世紀以上の取材活動を通して得た私自身の確信でもあります。
この本ではこれまでご縁をいただいた造り手の尊い酒造人生を伝える重みを受け止め、自信を持って書けるまで新たに取材や調査を加え、それがかなわなかった造り手は割愛させていただきました。県内全蔵元・全杜氏を等しく紹介できなかったことを、まずはお詫び申し上げます。
静岡新聞社発行のタウン情報誌『静岡ぐるぐるマップ』のライターをしていた昭和62年(1987)頃、取材先の店で偶然、酒造りに情熱を傾ける人々に出会い、静岡吟醸の味に感動。一人の静岡人として、「地酒なんだから地元の人と一緒に呑んで感動を分かち合いたい」という単純な欲求に駆られ、酒販団体の会報誌や地域情報誌で少しずつ酒の記事を書くチャンスを得て人脈を広げました。
20年前の平成7年(1995)、静岡市南部図書館で静岡の酒をテーマにした市民講座を企画し、一般の方々に地酒について直接語りかける場を得ました。講座はキャンセル待ちが出るほどの盛況で、「有料でもいいから続けて」という声をいただきました。
これをきっかけに、平成8年(1996)、しずおか地酒研究会という愛好会を作りました。発足直後は120人ほど集まり、静岡県沼津工業技術センターや県内の山田錦圃場を見学し、南部杜氏のふる里ツアーを敢行。蔵元vs酒販店のパネルトーク、女性だけの地酒ディスカッション、山田錦の玄米を食べる会、静岡在住の外国人を招いて地元農家の母さん手作り酒肴と蔵元のコラボ、酔い止め用のお茶の飲み方講座、陶芸家を囲んでMY酒器自慢のサロン、駿河湾地引網体験、2004年浜名湖花博での庭文化創造館地酒テイスティングなど等、地域資源や人材を活かしたプログラムで地酒未体験者を巻き込んで、地酒の持つ潜在的な魅力の掘り出しに努めました。個人の思いつきでこんなことが続けられたのも、新しいファンが確実に増えているからでしょう。
しずおか地酒研究会の発足間もない頃、『開運』の土井清幌社長(現会長)が、会の“効能”を「地元のいい酒を楽しい雰囲気で呑んでいると、隣に座った初対面の人が長年の親友のような気分になる。お茶や饅頭じゃこうはいかない」と評価してくださいました。
地酒は人と人をつなげ、地域コミュニケーションを円滑にし、実り多きものにしてくれます。今では売り手や飲み手の方々が独自に酒の会やイベントを開くようになり、業界の外から投じた“貧者の一灯”は、少しずつですが光量を増しているように感じます。
これまで思い込みだけで突っ走ってきた自分を辛抱強く導いてくださった造り手・売り手・飲み手の皆さまには、心から感謝申し上げます。皆さまは私に「本」という杯に注ぎ込む地酒の物語をたっぷり聞かせてくださいました。本当にありがとうございました。
その杯を用意してくださったのが静岡新聞社出版部の石垣詩野さん。彼女のしなやかな感性と酒への好奇心が、今までにない地酒本を生んでくれました。
共に注ぎ手になってくれたのがフォトグラファー山口嘉宏さんと佐野真弓さんです。佐野さんは静岡ぐるぐるマップ時代からの“戦友”。山口さんは世界中を飛び回り地球の裏側の街の路地裏・酒場・子どもたちの写真を撮り続ける映像作家でもあります。2人のレンズからは、造り手・売り手の今まで見たことのない生き生きとした表情が引き出され、書き手として大いに刺激をいただきました。3人の“チーム地酒満杯”にも深謝いたします。
静岡の酒が読み手・飲み手の皆さまにとって得難い人生パートナーになることを祈って、酒縁に乾杯!
なお、県内主要書店にてお取り扱いいただいていますが、静岡県外のかたにはネット通販(静岡新聞社アットエス、amazon)をご利用いただくことになります。サイトでの掲載まで少々時間がかかりますので、もうしばらくお待ちください。「早く読みたい!」とおっしゃる奇特な方がいらしたら、鈴木までご一報ください♪