杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

プラザヴェルデ開館記念講演会「富士と白隠」

2014-07-22 15:31:03 | 白隠禅師

 JR沼津駅北口に7月20日グランドオープンした県内最大級のコンベンション施設【ふじのくに千本松フォーラム・Plaza Verde (プラザ・ヴェルデ)】。21日(月・祝)に開かれた記念講演会『富士と白隠―白隠禅画をよむ』を聴講しました。

 

 

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 講師の芳澤勝弘氏(花園大学国際禅学研究所副所長・教授)は、白隠禅画・墨蹟の調査研究の第一人者。2012年に渋谷Bunkamura で開催され大きな話題を呼んだ白隠展(こちらを参照)の総合監修を務め、白隠展以降も全国各地で次々と発見される白隠禅画の調査に飛び回り、欧米でもセミナーを開くなど幅広くご活躍中です。

 

 

 

 渋谷で白隠展を観たときは、白隠さんの生まれ故郷沼津で、いつかこういう展覧会が開けたらなあと漠然と思ったものです。今回、沼津に誕生したコンベンション施設のオープニング講演会に白隠さんがテーマになったというのは、悦ばしい兆候です。渋谷では若いお客さんがすごく多くてビックリでしたが、今回の講演会の聴講者は残念ながら?私が一番若いくらいかな(苦笑)。ちょうど別会場で高校生たちが音楽発表会をやっていましたが、ホントは彼ら10代・20代に聴かせたいと思うくらい面白くて深~い内容でした。

 

 

 

 白隠慧鶴禅師(1685~1768)は生涯に数万点もの書画を残したといわれています。達磨像が有名ですが富士山の絵もたくさん残しています。それらの多くは、北斎や広重が描いた風景画や心象画とはひと味違う、禅の根本的教えや政治批判等が込められたメッセージ性の高い作品。芸術ではなく禅の伝道のために描いたのですから当然といえば当然ですが。

 

 

 今回、芳澤先生がメインで取り上げたのが、『富士大名行列図』。大分県中津市の自性寺所有で九州国立博物館に寄託された紙本墨画淡彩で、大きさは57センチ×132.6センチほど。真っ白な富士山を中央にドカンと据えて、下3分の1ぐらいのスペースImg109に人間163人、馬12頭を細かく描き込んでいます。左側には富士川と岩淵宿とおぼしき町並みが描かれています。

 

 

 パッと見えれば、吉原~岩淵あたりを進む参勤交代の大名行列をスケッチしたんだなあ、で、終わりですが、この絵はもともと、自性寺の和尚が、白隠さんに「達磨像を描いてください」とオーダーしたものだとか。でも達磨さんらしき人物は見当たりません。

 

 

 左端にはこんな文章が添えられています。

 

 

 寫得老胡眞面目 杳寄自性堂上人 不信舊�椈端午時 鞭起芻羊問木人

 

 (かねてから達磨(老胡)の絵を描くよう頼まれていた。ここに達磨の真骨頂を描いて、はるばる豊前の自性寺和尚にお届けする。12月の端午の節句に作ったこの画がわからぬならば、藁の羊に鞭打って木の人形に尋ねられよ)

 

 

 

 

 禅問答のような、ちんぷんかんぷんの内容ですが、芳澤先生は、「“達磨”は、禅の祖・達磨大師を指すと同時に、Dharma(仏法)そのものを指し、白隠さんは聖なる仏法の世界の象徴として富士山を描き、俗世の象徴として大名行列を描いたのでは」と説きます。

 

 しかも、ここに描かれた俗世界の人間163人のうち、ほとんどが富士山に目もくれないで、進行方向(西)を向いています。白隠さんは大名に宛てて『辺鄙以知吾(へびいちご)』という幕政批判書を書いたことがあり、のちに発禁処分をくらうのですが、この絵では、大名行列のような無駄遣いを暗に批判しているのです。

 

 先日、ヒット中の映画【超高速、参勤交代】を観て、大名行列は人目の多い宿場筋を通るときに行列人員を臨時雇いして、豪華行列に“演出”する苦心ぶりが描かれ、苦笑いをしたところですが、白隠さんはまさにそのことを槍玉に挙げたわけですね。

 

 と同時に、163人のうち、富士山をしっかり眺めている黒衣の旅の僧が2人、左端の岩山の先端と、右端の茶店のところに描かれています。この2人だけが聖なる仏性にきちんと目を向けているというわけです。

 2人の僧のモデルは、かの西行(1118~1190)で、西行さんが富士山を眺める「富士見西行図」という有名な絵を、白隠さんがモチーフにしたのでは、と芳澤先生。ちょっとした謎解きみたいでワクワクする解説でした。

 

 

 

 

 

 

 こちらのサイトに芳澤先生の詳しい解説が紹介されていますので、じっくりお読みください。

 

 

 講演会では『富士大名行列図』のほかに、『鍾馗鬼味噌』(五月人形でお馴染み・鍾馗(しょうき)さんが大きなすり鉢の中に鬼を押し込めて辛~い鬼味噌を作っている絵)、『二本大根』(浮気性の女性を二股大根に見立て、大根にお灸をすえて、2人の男にかつがせる絵)など風刺漫画のようなユニークな作品を数点、解説してくださいました。

 

 

 なお11月9日(日)には同じプラザ・ヴェルデにて【白隠フォーラムIN沼津2014】(こちら)が開かれる予定ですので、関心のある方はぜひ。