杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

古代朝鮮三国と日本の仏教

2009-07-06 12:20:53 | 仏教

 4~5日と京都へ行ってきました。4日は久しぶりの佛教大学四条センター講座。高麗美術館提携講座「朝鮮の仏教文化」シリーズの第1弾・『古代朝鮮三国と日本の仏教』を受講しました。京都府立大学名誉教授の坂元義種先生が、日本書記や海東高僧伝などの史書に書かれた、仏教が中国→朝鮮三国→日本へと伝播された経緯を解説してくれました。が、当時(西暦300~600年ぐらい)の東アジア史が解っていないと、ついていけない高度な内容で、隣席の年配の男性は終始居眠り状態でした。授業中の居眠り…大学のゼミを思い出すなぁ(苦笑)。

 

 

 

 ちょうど4月からNHK教育で「日本と朝鮮半島2000年」という大型シリーズ番組が始まりましたよね。毎回楽しみに観ていて、高句麗・百済・新羅・任那なんて国名や位置関係がなんとなく頭に入っていたので助かった。朝鮮の歴史、2年前に映像作品『朝鮮通信使』の脚本を書いた時、詰め込み勉強したけど、しょせんは詰め込み、すぐに忘れちゃった(笑)。NHKでこういう番組を作ってくれて復習と予習ができて幸いでした。ちなみに同シリーズでは朝鮮通信使も取り上げるようなので、これも楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 飛鳥寺とか東大寺などなど、日本国内の仏教の足跡を訪ねると、仏教が異国の宗教だなんて意識することはあまりなくて、日本で昔から自然に信仰されていたように錯覚しますが、やっぱり異国のものなんですね。

 日本に仏教を伝えたのは、百済の聖明王という人で、当時、新羅や高句麗と領土争いをしていた百済は、日本に支援を求めるべく、さかんに使者を送っていました。最初は武官が来て、次第に学者文化人などがやってきた。その中に僧侶もいました。

 

 

 学者や医者は歓迎するけど、古来からの神道を重んじる日本側は、異国の宗教は“お呼びでない”という態度。日本にやってきた百済の僧は、しばらくは肩身の狭い思いをしていたようで、あるとき、仏像をたくさんもらった蘇我馬子が、仏事を行おうと僧を探したところ、大和国周辺では適当な人物が見つからず、播磨国で、一度は出家したものの還俗してしまった者を無理やり連れてきた。その者のもとで最初に仏教を学び始めたのはわずか10歳の女の子(のちの善信阿尼)だった、というくらい“人材不足”だった。

 

 

 百済の僧が布教活動をなまけていたわけではなく、異郷の仏を受け容れたがらない勢力(物部氏)と、仏教が大陸で流行っているなら柔軟に学ぼうじゃないかという勢力(蘇我氏)が対立し、思うように活動できなかったというわけです。

 

 

 

 

 

 推古天皇の時代になって、聖徳太子が高句麗から来て帰化した高僧・惠慈から本格的に仏教を習うなど、ようやく仏教が“市民権”を得ます。仏教は最初、百済からもたらされましたが、遣隋使小野妹子が隋王からの国書を持って帰る途中、百済で国書を盗まれるという事件が起こり、「百済は信用ならない」という空気になります。

 

 

 高句麗は、北に隣接する中国・隋王朝と戦争中で、隋とひそかに結んだ南の百済・新羅とで挟み撃ちの危機に遭っていました。なんとか日本からの支援が欲しい高句麗王は、推古天皇に仏像献隆のための資金や、隋との戦争でぶんどった捕虜や駱駝を贈るなど、さかんにご機嫌取りをします。そして日本の僧のトップ(僧正)に高句麗王から使わされた僧・惠潅が就任したのでした。

 

 …そんなこんなの仏教伝来時の顛末。漢文の史料コピーを必死に目で追いながら、たぶん、相手は現役学生と同じつもりでマイペースで講義される坂元先生のお話についていくのは至難の技で、脳トレ上級編をひとゲームこなしたぐらいの疲労感…でしたが、外から宗教が入ってくるときは、また異郷の宗教を受け入れるときは、政治と表裏一体だということは、よく理解できました。

 

 

 先生は「既存の宗教がある国に、新しい宗教が入ってくる時は、統治者のトップダウンが必要だ」とおっしゃっていましたが、覇権争いしている国や地域では、ひとつ間違えれば、宗教も恐ろしい武器になるわけです。日本に入って来たのが、一神教ではなくて、仏教のようにおだやかな宗教でよかった、とつくづく思います。

 

 

 

 

 

Imgp1164  講座終了後、高麗美術館の片山真理子さんはじめ、学芸員の皆さんと一緒に紫竹にある高麗美術館まで移動し、7月3日から始まった館蔵品展『蓮の清香~君子の花・浄土の花』を鑑賞しました。高句麗・百済・新羅・統一新羅時代の瓦、高麗時代の青磁、李氏朝鮮時代の仏像や絵画など、朝鮮歴代の調度品の中で、仏の象徴である蓮を描いた名品がそろっています。

 

 

 暑いこの時期、泥の中に清らかな大輪の花を咲かせる蓮。…この季節の美術鑑賞には最適な目の保養となりました。

 

 

 鑑賞券をたくさんいただきましたので、ご希望の方に進呈したいと思います。京都旅行のご予定のかたはぜひプロフィール欄のメールアドレスまでご一報ください。期間は9月27日までです。