先日のブログで、『吟醸王国しずおか』パイロット版の試写を、静岡でもやってほしいと書いたところ、さっそく2ヶ所から問合せをいただきました。このうち、篠田酒店(静岡市清水区)さんが、9月14日にグランシップで開催予定の恒例地酒まつりで、試写の時間を作ってくれることになりました。
酒の小売店にとっては大事な顧客サービスであり、県内外から人気蔵元が多数参加する貴重なプロモーションの場で、酒の売り上げにすぐに直結するとは限らないこのような企画に時間を割き、そのために必要な機材や人材を用意していただけるというのは、よくよく考えてみると大変なことです。「何十万も会費は払えないけど、こういうことで応援できれば」と担当の平井さん。私は、彼が静岡市呉服町ふしみやビルB1のモダン居酒屋『伽音(かのん)』のオープン時、仕入れマネージャーをしていた頃からの知り合いで、仕入れを通して静岡酒の世界にのめりこみ、篠田酒店に移ってドリームプラザ店の立ち上げに尽力し、年1回のしのだ地酒まつりをグレードアップさせた手腕を頼もしく見守ってきました。こういう申し出も、アイディアマンの彼らしく、とてもありがたく思います。
酒の世界には、時々、彼のような突拍子もない熱の入れ方や行動力を発揮する人材が登場します。おそらく、どんな分野に進んだとしてもそれなりも功績を上げるであろう有能な人材をうまく活かすことができた蔵元や小売店は、本当に幸せです。
篠田酒店の場合は、平井さんと、もう一人、静岡伊勢丹和洋酒売り場の伝説的販売員だった萩原和子さんという2トップが、小売現場を担うようになり、大きく飛躍したと思います。私は、篠田酒店には、酒を買いに行くというよりも、この2人に会いに行くという気分でいつも訪れます。そして、とくに地酒のように、売り手の説明や語りかけが重みを増す商品を扱う店では、店主や販売員目当ての客が増えるということが成功の目安になるだろうなぁ、といつも実感しています。
篠田さんにも、こういう販売員の力をもっともっと活かす店作りをしてほしいし、自分も、こういう店に支持されるような活動をしなければ、と思います。
そんなこんなで、パイロット版試写会が少しずつ本決まりになり、まだまだ撮影は始まったばかりなんですが、早くも撮りだめたテープを編集し、他人に見せることを強く意識付けする段階に突入、と相成りました。
昨日(19日)も丸一日、カメラマン成岡正之さんのオフィスでVチェック。磯自慢篇では、杜氏・多田信男さんの存在感に圧倒されました。「この人は役者のように絵になる。惚れ惚れするほどカッコいいねぇ」と成岡さん。喜久酔の青島孝さんの若々しさや規律正しい姿勢とは違う、熟練職人らしいゆったり包み込むような仕草が、画像を通すとなんとも対照的で、双方に魅力があります。
これに、他のキャラの強い蔵元杜氏や、杜氏なりたての若い社員などが加わると、どんな作品になるんだろう、酒造りに挑む人間ドキュメンタリーとしては、この上なくバラエティにとんだ見ごたえのある作品になるだろうと、自分の中で勝手にワクワクしています。
ちなみに、『吟醸王国しずおか』のタイトル文字は、蔵元杜氏の最強キャラでおなじみ、小夜衣の森本均さんに書いていただくようお願いしました。プロの書道家やCGアーティストに頼む道もありますが、森本さんがふだん書かれるラベル文字が好きなのと、森本さんは静岡の蔵元の中でも屈指のきき酒名手で、静岡代表として公的な鑑評会の審査員をこなされていること、そしてこの作品らしさを考えたら、最適だ!と思ったのです。
最初は「とんでもねぇ」とブツブツ言われましたが、最後には「お前さんがこれまで貢献してきたことを考えりゃ、これっくれぇのこたぁしてやらんとバチがあたるなぁ」と、森本さんらしい、ぶっきら棒かつ愛情あふれるお言葉をいただけました! 小夜衣ファンの皆様、乞うご期待&森本さんの手間賃として、ぜひぜひ募金をお願いします(笑)。
ただ、静岡の蔵元を20年前から知っている私が感じる魅力や、映像のプロとして何ヶ月か彼らを見続けてきた成岡さんが感じる魅力と、一般視聴者の感じるものが必ずしも一致するとは限りません。そのあたりの“カッティング・エッジ”のつけ方は非常に難しいと、素人の私でも予想できます。
具体策としては、酒も、この映像もまったく未見というディレクター経験者なり編集者に加わってもらうことを考え、パイロット版とはいえ、完成度の高い映像集を目指したいと思っています。酒造りと同様、映像作りも、ペテランと新人の呼吸の合わせ方とか、互いのスキルの活かし方が重要になるんですね。共同作業に慣れていない私にとっては、ホントに一つひとつが勉強です。静岡の蔵元で、経営者になりたてで、杜氏と2人、手探りで酒を造り始めた若い後継者を何人も見てきましたが、まさに彼らの心境そのものです。
第一、ここで手抜きをしたら、今後の資金調達が立ち行かなくなるばかりか、何よりも、試写の機会を設けてくださった東京の松崎晴雄さんや篠田酒店さんに申し訳ありません。・・・ホントに、試飲酒を持参して営業に回る蔵元の気持ちになりそうですが、その試飲用の酒に、どれだけのものを投入できるか、自分自身、厳しく試されているところかもしれません。
さて、21~22日は広島ロケに行ってきます。年に1度、全国の酒蔵が集う全国新酒鑑評会製造技術研究会。鑑評会のあり方は、時代を経て大きく変わってきましたが、昭和61年、この全国の場で大量入賞したことによって吟醸王国しずおかの歩みが大きく前進したことを思えば、被写体として避けられない存在です。この20年で何が変わり、何が変わらないままでいるのかを、この眼で確かめてみたいと思っています。