杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

光の管が灯すもの

2014-11-29 20:29:30 | ニュービジネス協議会

 11月20日にJR静岡駅前葵タワーのグランディエールブケトーカイ全館を貸し切って、【第10回新事業創出全国フォーラム】が開催されました。(独)中小企業基盤整備機構/(公社)日本ニュービジネス協議会連合会が主催し、(一社)静岡県ニュービジネス協議会が主管運営するビジネスフォーラムで、1000人を越える来場者で賑わいました。私は実行委員会の記録班スタッフとして終日会場を走り回り、今は膨大な数の写真整理や講演&パネルディスカッションのテープ起こしに追われています。このフォーラムでいろいろ思うことがあったので、忘れないうちにブログに書き留めておこうと思います。

 

 パネルディスカッションのパネリストは基調講演の講師も務めた山本芳春氏(㈱本田技研研究所社長)、山口建氏(静岡県立静岡がんセンター総長)、木苗直秀氏(静岡県立大学学長)、原勉氏(浜松ホトニクス㈱中央研究所長)という豪華な顔ぶれ。「ふじのくにから未来が見える~20年後のビッグビジネスを語る」というテーマで、それぞれの専門分野で世界を変えるような近未来ビジネスを語っていただくというものでした。

 

 

 実はフォーラムの準備期間中だった9月9日、パネルディスカッションのコーディネーターを務める静岡県ニュービジネス協議会の鴇田勝彦会長、原田道子副会長のお供で、浜松ホトニクス㈱中央研究所の原所長を表敬訪問しました。お宝技術満載の研究所内部は写真撮影不可で、唯一OKだったのが、岐阜のスーパーカミオカンデに設置して宇宙素粒子ニュートリノをキャッチし、2002年に小柴昌俊東大名誉教授にノーベル賞をもたらした光電子倍増管。これを目の前にしたとき、私の脳裏には、なぜか、“ナムカラタンノートラヤーヤー”で始まるお経「大悲呪」が響いてきました。光電子倍増管とは直接関連はありませんが、2008年10月、南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏の3氏が“素粒子物理学における「対称性の破れ」”でノーベル物理学賞を受賞した日、私はこのブログに「大悲呪と素粒子」という記事(こちらを書いていたのです。

 

 

 ブログを読み返すと、科学と仏教を無理やりこじつけたシュールな記事だなあと恥ずかしくなっちゃうのですが、このところ、あながち、こじつけではないのかも、と確信を持つ出来事が続きました。9月9日の浜ホト訪問日は、原所長が自己紹介のとき、京都龍安寺の庭の蹲(つくばい)に刻された禅語『吾唯足知』や同義語の『少欲知足』がお好きだと話されたのです。おおーやっぱり科学者は禅の世界に共鳴しているんだ!と驚きました。というのも、その数日前、臨済宗妙心寺派東京禅センター主催の講演会【科学と仏教の接点】の開催を、偶然ネットで見つけて参加を申し込んだばかり(聴講後の感想ブログはこちらをご覧ください)。で、訪問前日の9月8日には禅学の大家である芳澤勝弘先生と沼津でお会いできるという連絡が。そして次の日、目には感じない波長や超微弱な光を検出するという倍増管をイザ目の前にしたら、自然にお経が聴こえてきた…。なんともシュールな体験でした(苦笑)。

 

 浜松ホトニクス中央研究所ではこのほか、バイオフォトン(生体微弱光)といって植物が光合成しきれず光が戻る時間差をキャッチして植物の健康状態を量る―たとえば排水中の藻類の状態を量って有害性を評価する装置、放射線を使わず光で体内のガン細胞の状態を判断できる次世代PET診断システム光の位相を整える制御技術を登載した眼底カメラで眼の疾患や糖尿病の早期発見を可能にするしくみ、中赤外に発振波長を持つ半導体レーザ(量子カスケードレーザ)で炭酸ガスの成分を細かく分析して空中に漂っているCO2が今いる建物から発生したものか中国から飛んできたものかが判るしくみ、ヒッグス粒子を検出したシリコンストライプディテクタすばる望遠鏡に登載した世界最高感度のイメージセンサ等など、原所長自ら一生懸命説明してくださるのにこちらの理解がまったく伴わず、でもとんでもなくスゴイらしい製品群を存分に見せていただきました。・・・とにかく、光でなければ認識できないものを可視化させるテクノロジーなんだ、ということだけは解りました。

 ご一緒した鴇田会長から「あなたが食いつきそうなものがあったよ」と背中を突かれたのが、赤色&青色発光ダイオードと高圧ナトリウムランプの植物工場でわずか75日で育ったという山田錦で醸した地酒「光の誉」。2002年に磐田市の千寿酒造と共同開発したそうですが、1升瓶あたり30万円とべらぼうなコストがかかり、あいにく試験醸造で終わってしまったとか。千寿酒造には何度も行っているのに知らなかった(悔)・・・! 植物工場で2ヵ月半で育つなら、今現在、山田錦を全国から必死にかき集めているアノ酒蔵が実用化するんじゃ、なんて思ったりして。

 

 10月半ばにはニュービジネス協議会の茶道研究会でこれも偶然、龍安寺の『吾唯足知』を見に行きました。そういえば浜松ホトニクスの所長が好きだって言ってたなあと眺めていたら、京都在住の友人ヒロミさんとバッタリ再会。なぜかこの日の朝起きたら『吾唯足知』の蹲が頭に浮かんで、自然と足が向いたのだと。ヒロミさんは昔、静岡アウトドアガイドという雑誌で初めて地酒の連載記事を持っていたとき、誌面を作ってくれたデザイナーさんで、現在は京都で出版の仕事に関わっていることを最近フェイスブックで知りました。なんとも不思議な再会です。

 

 

 1997年6月発行の静岡アウトドアガイドで、ヒロミさんに誌面を組んでもらった千寿酒造の紹介記事を読み返してみたら、昭和21年から千寿の杜氏を務めた伝説の越後杜氏・河合清さんとその弟子の中村守さん、孫弟子の高綱孝さんの3代に亘る越後流酒造りが、磐田の地でしっかり息づいた価値を力説していました。千寿酒造は現在、経営者が変わってしまいましたが、高綱さんのもとで修業した東京農大醸造学科卒の社員杜氏鈴木繁希さんが現役で居る限り、酒道の灯は消えないと信じています。これは科学技術ではなく、人が、灯し続ける意思があるかないかの話、ですね。

 

 

 とにもかくにも、11月20日のパネルディスカッションで、1000人を超える聴衆を前に原所長はこんな発言をされました。

「京都のある高僧に“少欲知足”という禅語を英語に訳すとどうなるかと訊いたところ、即座に“sustainable(持続可能)”と応えたそうです。日本の生活の知恵や考え方、東洋的な思想はすばらしいと思いました。我々が研究する光技術が産業化できれば、いずれは地球上の問題解決にもつながるのではないか」

 

 浜松ホトニクスの光電子倍増管の威力って、月で懐中電灯を灯して地球でキャッチするようなレベルだそうです。11月20日のフォーラム会場での点灯展示を見ていたら、なんだか、塵のような私の仏性(といえるものがあれば)を灯してくれた観音様が姿を変えて現れたのかもしれない、と思えてきました・・・(笑)。

 

 存在しているものを認識する力を得たら、科学技術は地球上の問題を一つずつ解決していくのでしょう。同じように、禅の教えは人間の心の問題を解決してくれるんだろうか・・・。まだまだテープ起こしが終わらないというのに、なんだか酒を呑まずにはいられなくなってしまいます(乾いた杯に酒を注いでくれる相手は傍にいないのだけれど)。

 

 とりとめもない駄文でスミマセン。フォーラムの講演録はしっかり作りますので、関係各位はしばしお待ちくださいまし。



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